doing their own thing
Doing Their Own Thing / Maceo & All The King's Men
 House Of The Fox '70 

1970年3月某日、当時最強(いや、史上最強かも)を誇ったジェイムス・ブラウンのバンドのメンバーが、賃上げと待遇改善を求めて親分JBに反旗を翻し、ライヴでの演奏をボイコットするストライキに突入。血判状に名を連ねたのは、メイシオ・パーカーに実弟のメルヴィン・パーカー、ジミー・ノーラン、アルフォンゾ・ケラム、"スウィート" チャールズ・シェレル、バーナード・オーダム、リチャード "クッシュ" グリフィス、エルディー・ウィリアムズら、JBファンクを支えた錚々たる面々。
実力行使に出たメイシオらに対し、親分JBは謀反を企てた舎弟連中をあっさり解雇。代わりにお膝元のシンシナティで活動するペースメイカーズというまだ若く無名のバンドを起用するというウルトラCを繰り出す。事情もよく呑み込めないままいきなりステージに上げられた彼らが、JBの ”行け!コールド・スウェット!" の号令とともに無我夢中で演奏を始めた瞬間、ファンク新時代が幕を開けた ― 。

これが世に言う(言わない)メイシオの乱。よく知られた、よく出来たお伽話のような史実。まさに、「その時、ファンクの歴史が動いた」出来事。
しかし一説によると、JBはそれ以前からバンド内の不穏な動きを察知していたらしく、不測の事態に備えて代わりのバンドをリクルーティング。まだ粗削りだが見込みのあるブーツィーらペースメイカーズに密かに目を付けていたらしい。つまりこの奇跡のような出来事は、決して行き当たりばったりの結果オーライではなく、JBの用意周到な準備により齎されたものではないかということ。それは、その後JBがペースメイカーズ改めJB'sを従え、「Sex Machine」「Super Bad」「Soul Power」など革命的なファンク・クラシックを次々と量産していったという歴史が証明している。
それにしても、JBの情報収集力と危機管理能力には唸らされるし、埋もれた才能を見つけ出す慧眼には感服せざるを得ない。

一方、労使交渉に呆気なく敗れた反逆者たちはと言うと、首謀者(だったかどうかは分からないが)メイシオを頭目に新バンド、メイシオ&オール・ザ・キングス・メンを結成。袂を分かってもなお、”王者(JB)の兵” を名乗らざるを得ない悲哀も感じてしまうが(俺たちがJBのファンクを支えたんだという自負の顕れなのだと思うが)、JBから様々な妨害工作を受けたとも聞く。圧力や忖度によるものか、彼らがリリースした2枚のアルバムはラジオのオンエアになかなか乗せてもらえず、セールス的には失敗という結果に終わる。
しかし、少なくとも70年リリースの1stアルバム『Doing Their Own Thing』は黒光りするファンク/レア・グルーヴの傑作だ。それも当然、60年代末のJBファンクを演奏してたバンドがほとんどそのまま独立したのだから。
リーダーのメイシオの張り切りっぷりも凄くて、サックス吹きまくり、おまけに歌まで歌っちゃう。

アルバムの冒頭、ドロドロにドス黒いベースとファンキーなギター・カッティングをバックに "M-A-C-E-O" コールが終わるのを待ちきれんとばかりに前のめりにファンキー・ブロウ吹き散らかす、その名も「Maceo」から勢いよくスタート。
「Got To Getcha」は92年のライヴ盤『Life On Planet Groove』でキム・メイゼルのヴォーカルをフィーチャーして演っている曲だが、ここではメイシオが1人でリード・ヴォーカルを取り、バンド・メンバーもワサワサと盛り立てる。セクシーな女性の吐息が入ったブレイクダウンも非常に効果的。「Southwick」は、これも『Life On Planet Groove』の「Shake Everything You Got」にてこの曲のホーン・アレンジを引用している。ドラムスとベース、ワウ・ギターによるグリグリとトグロ巻くようなグルーヴが堪らなく黒く臭う。
「Funky Women」もベースとギターが絡み合いながらグルーヴィーにウネる、ブラックスプロイ調のスリリングなジャズ・ファンク。メイシオの喋くりも路地裏感を醸す。

「Shake It Baby(Keep On Shakin It)」はボビー・バード的な張り切りファンキー・ソウルで、メイシオも興に乗ってファンキー&ソウルフルに歌い飛ばす。「Better Half」はギャング・スター「Form Of Intellect」でのサンプリングがあまりに印象的な、ギター・リフのループが頭にこびり付いて離れない中毒性の高いジャズ・ファンク・ジャム。
「Don't Waste This World Away」はメイシオではなくクッシュがリード・ヴォーカルを取るソウル・バラード。正直言ってつまらない、と昔は感じていたこの曲も、このアルバムのこの流れで聴くと、このまったりムードもそんなに悪くないかも、と思えてきた。「Mag-Poo」は60年代末のJBのインスト・ファンクの雰囲気そのまんまの曲。モゾモゾ蠢きながら走るワウ・ギターに、いつものメイシオ節ももちろんファンキー。
ラストの「(I Remember)Mr. Banks」は霧に咽ぶジャジー・スロウ・ナンバーで、メイシオのソウルフルなプレイとクッシュのミュート・トランペットが聴きモノだが、しっとりした曲でもバンドの演奏には黒いファンクネスが滲んでいる。

英チャーリーの再発CDには、同年にシングル・オンリーでリリースされたスライ「Thank You For Letting Me Be Myself Again」をボーナス・トラックとして追加収録。途中「I Want To Take You Higher」のヴォーカル・フレーズも交えつつ、ギトギト脂ぎったグルーヴを垂れ流すファンク・チューン。ドラムス&ベースにギターの絡みがやはりドファンキーで、ホーンズも分厚く盛り上げる。


2014.8.14 投稿、2021.3.20 改訂