sign of the times
Sign Of The Times/Prince
 Paisley Park '87

プリンスの最高傑作と目される2枚組大作。
前年の『Parade』以降、本作リリースに至るまでの紆余曲折は次のとおり。
カミール名義で『Camille』制作→プリンス&ザ・レヴォリューションとして『Dream Factory』(『Camille』収録曲を数曲含む2枚組)へと昇華→レヴォリューション解散に伴い、『Dream Factory』収録曲を録り直し&曲の追加、入替を行い『Crystal Ball』(3枚組)へと昇華→ワーナーのストップがかかり、渋々曲を削り、シングル曲「U Got The Look」を追加した16曲入り2枚組『Sign Of The Times』としてリリース。
しかしまぁ、何というヴァイタリティ。この頃のプリンスはまさに神懸り、湯水のごとく次々と湧いてくる曲を、片っ端から録り溜めていったのだろう。個人的には、最終的に2枚組にダウンサイズしたのは正解だったと思うが、アルバムの流れや統一感を重視したために、出来のいい曲を敢えて削っていたりする。統一感と言っても、ここに収録された曲は、ファンクあり、ロックあり、ジャジーな曲やゴスペルっぽい曲もありで、非常にヴァラエティに富んでいる。プリンス・サウンドの集大成といった趣きだが、アルバム全体としては不思議なほどに統一感があり、どの曲にも通底する雰囲気、ムード(よく「密室的」と評されるもの)がある。音数は比較的少なくシンプルなプロダクション、『Parade』のようなブッ飛んだ曲想や、『Purple Rain』のような紫煙立ち籠める淫靡な響きもない。そのため一聴では地味な印象の作品だが、噛むほどに濃厚な殿下汁が沁み出してくるよう。
その最たる曲が、アルバムのオープニングを飾るタイトル曲「Sign Of The Times」だ。淡々とリズムを刻み続けるドラム・マシンを軸に、極端に音数を削ぎ落とした、骨格だけのシンプルなトラックだが、それ故に内包するファンクネスが剥き出しになったような生々しさに戦慄を覚える神曲。ここから急転直下、ポップに弾ける極彩色のロックンロール「Play In The Sunshine」への繋がりは圧巻。
ストンプするような重いビートに特徴的なホーン・アレンジが乗っかった「Housequake」は、プリンス・ファンク最高峰の1曲。ウネるドラム・マシンのビートと妖しく浮遊するキーボードが陰鬱なグルーヴを紡ぐ「The Ballad Of Drothy Parker」や、抑制され屈折したスロー・ファンク「If I Was Your Girlfriend」は、プリンスがスライから多大な影響を受けたことを物語る、『暴動』にも通ずるダウナーなファンク。その他、淫靡に蠕動するビートに猛々しいホーン・セクションが絡む「Hot Thing」、ほぼドラム・マシンのみの骨太な「It」など、プリンス・ファンクの集大成と言わんばかりのファンク濃度。
一方で、ポップでキュートな人気曲「Starfish And Coffee」、ムーディーでジャジーなスロウ・バラード「Slow Love」、極端に音数の少ない真摯なラヴ・ソング「Forever In My Life」、哀愁滲むポップな佳曲「Strange Relationship」、ストレートな青春ロック・ナンバー「I Could Never Take The Place Of Your Man」など、アルバムには様々なタイプの曲が含まれ、多才で多彩な殿下の芸風を余すところ無く収めている。
本作中唯一、レヴォリューションがバックを務めるライヴ録音「It's Gonna Be A Beautiful Night」は、プリンスの素晴らしいライヴ・パフォーマンスの一端を味わえるパーティー・ファンク。オーバー・ダブされたシーラEの受話器越しラップもクール。ラストの「Adore」は名曲中の名曲スロウで、ファルセットで切々と歌い上げる殿下の姿はあまりにも神々しい。
アルバムの全ての曲が良いわけではないし、個人的には「The Cross」や「U Got The Look」は好きな曲ではないけれど、経年劣化に耐えうるタイムレスな魅力を持つこのアルバムが、やはり1番好きだ。

(2015.9.15加筆訂正)