hes coming
He's Coming/Roy Ayers Ubiquity
 Polydor '72

ロイ・エアーズは一応ジャズにカテゴライズされる人だけれど、70年代にポリドールから数多リリースされた作品は、どれもその時々のソウル・ミュージックの美味しい部分を掬い取ったようなサウンドで、当時のジャズ・リスナーからは見向きもされなかったに違いない。それほどヒットしたとも思えないのだが、それでもメジャー・レーベルから毎年何枚もアルバムを出し続けられたというのも何だか不思議だ。ロイのメインの楽器はもちろんヴィブラフォンだが、ヴァイブが入っていない曲もあったりして、プレイヤーというよりもアーティスト、プロデューサー気質の人だ。ディスコ・ファンク的なプロダクションの70年代後半の作品も悪くはないが、ニュー・ソウルとシンクロした70年代前半の作品群がやはりいい。取り分け、この『He's Coming』は傑作中の傑作。
アルバム・タイトルや曲名からも察しが付くが、これはロイ流ゴスペル・アルバムなのだろう。1曲目のタイトルから「He's A Superstar」だ。ソウルとジャズをうまく折衷したグルーヴィーなサウンド。ダニー・ハサウェイやアレサ・フランクリンも歌ったゴスペル賛歌「He Ain't Heavy,He's My Brother」は、敢えてのインスト。ヴァイブとフルートの澄んだ音色が夜の闇に溶け込むよう。エレピが気持ちいい「Ain't Got Time」はロイがヴォーカルを取る。ロイの歌は決して上手くはないが、渋い色気、むせ返るような艶かしさがあり、ここでも生々しくエロいヴォーカルを聴かせてくれる。「I Don't Know How To Love Him」は、冒頭のミルフィーユ状に何層も折り重ねられたメロウなフルートに昇天必至。
タイトル曲のレア・グルーヴ・チューン「He's Coming」は、ロイのマレット捌きそのままのオルガンが、ヴァイブの代わりを果たしている。「We Live In Brooklyn Baby」は、ダークでスリリングなストリングスのジャズ・ファンク・クラシック。またまたロイのエロ・ヴォイスに骨抜きにされるメロウ・グルーヴ「Sweet Tears」、ラストはヴァイブをたっぷりフィーチャーしたクールなジャズ・ファンク「Fire Weaver」。