art official age
Art Official Age/Prince
 Warner '14

思わず我が耳を疑った、驚愕のワーナー復帰。そして久々のメジャー・リリースとなった4年ぶりの新作。
まず、気になるのが、プロデューサー・クレジットに殿下の名前がないこと。同時リリースのサード・アイ・ガール『Plectrumelectrum』は、プロデュース、アレンジ、作曲、演奏は"Prince & 3rdeyegirl"とクレジットされているが、こちらは"@3rdeyegirl @Joshuaworld"となっている。これは一体どういうことなのだろうか?本当に他人にプロデュースを預けてしまったのか、それとも殿下の気紛れな悪戯か(情報を操作しファンを翻弄、神秘性を高めるのは殿下一流のヤリ口だ)。殿下が自分のアルバムのプロデュースに一切関わらないとは思えないし、日本盤の帯にはプリンスとジョシュア・ウェルトンの共同プロデュースと記載されているので、そういうことなのだろう。ただし、これまでと違うのは、殿下のワンマン制作ではなく、共同プロデューサーが殿下と対等に近い立場で制作にあたっているか、曲によってはプリンスは一歩引いているように感じられるところだ。
アルバム全体としては、非常に若々しく、開放感に溢れた印象だ。クオリティの高さは言わずもがな。90年代のプリンスは、ヒップホップとの距離感、折り合いの付け方が作品の出来を大きく左右していたが、21世紀に入ってからは、過去の(=80年代の)自身のシグネチャー・サウンドとの距離の取り方が大きなテーマだったように思う。『Musicology』も『3121』も、80年代的なサウンドを狙って作ったような部分があったように思うが、このアルバムには、あからさまな80年代回帰の雰囲気はなく、2014年のプリンス・サウンドを提示してみせる。ロック方面を『Plectrumelectrum』に切り分けたおかげで、ファンク/R&Bのアルバムとしてよくまとまっており、何度も繰り返し聴きたくなるような心地よい流れがある。
アルバムの世評が賛否分かれることは容易に想像できるが、否定的な意見の矛先はおそらく「Art Offcial Cage」「U Know」の2曲に向けられるのだろう。アルバム・タイトルと微妙に異なる「Art Official Cage」は、アルバムの1曲目を担う重要曲のハズだが、およそプリンスらしからぬ曲で、まさかのEDMサウンドに面喰うこと必至。コレを聴くと、やっぱり殿下はアルバム・プロデュースしてないのではと思えてくるが、この曲はジョシュア・ウェルトンが主導したということなのだろう。「U Know」はプリンスでは珍しいサンプリングを用いた曲だが、これもウェルトンの色が強く出ているということか。とは言え、この2曲とも良く出来た曲で、特に「U Know」の殿下のファルセットは、とても50代半ばとは思えない艶かしさでゾクゾクする。
その他の曲は、プリンス臭濃密、殿下汁濃厚。先にも書いたが、それでいて安易な80年代懐古に陥っていないあたりは、共同プロデューサーを立てた成果なのかもしれない。また、日本盤ライナーでも指摘されているが、歌詞の中で例の宗教から足を洗ったことを示唆しており(「Art Official Cage」)、往時のエロ路線が復活しているのも嬉しい(歌詞も対訳も付いていないので詳細は分からないが)。特にミディアム~スロウは素晴らしい充実っぷりで、粘着するグルーヴのミドル「Clouds」、張り裂けんばかりのファルセットで切々と訴えかけるバラード「Breakdown」、プリンスらしい焦らすようなエロさが堪らない「Breakfast Can Wait」、スウィートなクラシック・ソウルの趣きの「This Could Be Us」、アンディ・アローと一緒に歌う哀愁ミディアム「What It Feels Like」と浮遊感のある「Time」など、非常に気に入っている。荘厳な「Way Back Home」「AffirmationⅢ」はそんなに好みではないが。
ファンク・ナンバーは意外に少なく、そこに物足りなさを感じなくもないが、ファンクは少数精鋭というアルバム構成は80年代の傑作群を彷彿とさせたりもする。「The Gold Standard」はタイトル通り80年代プリンス・サウンドの黄金律を敷き詰めたような曲だが、この曲にしてもかつてのスタイルの単なる焼き直しに終っていない。「Funknroll」は『Plectrumelectrum』にもファンク・ロックなヴァージョンが収録されているが、こちらはエレクトロな質感のファンクになっている。
このアルバムに対する評価は様々だろうし、80年代からのオールド・ファン、90年代のファンク/R&B/ヒップホップ路線から入ったファン、『Musicology』以降の新しいファンなど、それぞれ感じ方も違うだろう。ディアンジェロとほぼ同世代の、『Lovesexy』でファンクの産湯を浸かったファンとしては、それこそここ25年間では最高のプリンスのアルバムだと感じる。