i want you
I Want You/Marvin Gaye
 Tamla '76

大名盤『What's Going On』『Let's Get It On』に勝るとも劣らない、このアルバムもやはり不朽の名作。
このアルバムをめぐるエピソードは今ではよく知られた話だが、マーヴィンがレオン・ウェアの楽曲に出会っていなかったら、この素晴らしい作品も生まれなかっただろうことを思うと、マーヴィンとレオンの奇跡的な邂逅に心から感謝したくなる。
それにしても、本作に収められた曲の素晴らしさと言ったら。儚くも美しく、官能的で、どこか翳がある。レオンのメロディ・メイカーとしての才能はもちろんだが、マーヴィンのヴォーカルが曲をさらなる高みに押し上げる。幾重にも声を重ね、恍惚と懊悩の入り混じった狂おしい感情を抑制された歌に込める。西海岸の腕利きによるバッキングもグルーヴィーこの上ない。ジェイムス・ギャドソンのドラムスとチャック・レイニー、ウィルトン・フェルダーのベースが絹糸のようなグルーヴを練り上げ、デイヴィッド・Tが黄金のフレーズを爪弾き、ローズやパーカッションが寄せては返すようなリズムをメロウにコーティングする。コールリッジ・テイラー・パーキンソンによるストリングス・アレンジは流麗なストリームを描く。アーニー・バーンズの、肉感的でしなやかな躍動感を捉えた素晴らしいジャケットは、このアルバムの音をそのまま描いたかのようだ。「I Want You」「Come Live With Me Angel」「After The Dance」「All The Way Around」「Since I Had You」「Soon I'll Be Loving You Again」...メロウ・ゴールドな曲の数々に身も心も絆される。デラックス・エディションには、「After The Dance」のムーグの代わりにフルートをフィーチャーしたヴァージョンや、「I Wanna Be Where You Are」のロング・ヴァージョンなど、ファンには堪らない美味しい別テイクや未発表曲がたっぷり。