extension of a man
Extension Of A Man/Donny Hathaway
 Atco '73

ダニー・ハサウェイ、生前最後のアルバム。
ソウル、ジャズ、ゴスペル、ラテン、クラシックまで、ダニーの血肉となった様々な要素を内包しつつ、極めて洗練された極上の音楽として結実した神盤。音楽家がその一生をかけて目指す高みに、ダニーはこの時27歳にして到達してしまった感すらある。ダニーはこの後創作活動に行き詰まり、1枚もアルバムを残せないまま不幸な最期を遂げてしまう。
アルバムは10曲中6曲が自作だが、誰の曲であってもすべてダニーの曲にしてしまう懐の深さ。ダニーの手による美しいアレンジメント、ハート・ウォームなヴォーカル、コーネル・デュプリー、フィル・アップチャーチ、ウィリー・ウィークスらによる演奏、すべてが素晴らしい。オーケストラによる荘厳な「I Love The Lord;He Heard My Cry(PartⅠ&Ⅱ)」で意表をつく幕開けだが、ダニーはこの曲で自身の高度なアレンジ能力を知らしめたかったに違いない。クラシカルではあるが、その根底にはゴスペルがある。この曲から次の「Someday We'll All Be Free」への流れは鳥肌モノの美しさ。以後、多くの黒人歌手によって歌い継がれてきた不朽の名曲。伸びやかでソウルフルなダニーの歌が素晴らしい。
「Flying Easy」は軽やかにスウィングしながら飛翔する、これまた素晴らしい曲。「Valdez In The Country」はラテン・ジャズ・グルーヴのインストで、ダニーが鍵盤奏者としての技量を見せつける。アル・クーパーの「I Love You More Than You'll Ever Know」は、原曲は聴いたことないのだが、おそらくオリジナルより遥かに暗く陰鬱な仕上がりなのだろう。よく、内省的と言われるダニーの闇の部分がもろ出しになったような、ヘヴィな曲。
ゴツいグルーヴでワサワサと盛り立てる「Come Little Children」は、ダニーとしては割と珍しいファンキーな曲だが、バンド一丸となったグルーヴがカッコいい。JR・ベイリー作の「Love,Love,Love」は気持ちよくグルーヴするメロウ・ソウル。ベイリー自身のヴァージョンもいいが、やはりダニーの方が2枚も3枚も上手。「The Ghetto」の続編のような「The Slums」はファンキーなインストで、これもやはりカッコいい。ダニー・オキーフの「Magdalena」はチャールストン風の異色曲。ラストのレオン・ウェア作「I Know It's You」も超名曲。ソウルを込めたヴォーカルで熱く歌い上げる。