these songs for you live
These Songs For You,Live!/Donny Hathaway
 Atlantic '04

2004年に突如このCDがリリースされた時は本当に驚いた。
72年の『Live』と没後の79年にリリースされた『In Performance』から数曲づつと、未発表のライヴ音源6曲を追加したライヴ・ベスト盤。やはり注目すべきは未発表音源で、うち3曲は73年カーネギー・ホールでのライヴ。2曲が『Live』のA面と同じ71年トルバドゥールの音源。残る1曲が72年ロスでのライヴとなっている。
冒頭の未発表音源3連発にまず驚愕。ダニーの伸びやかな歌唱とグルーヴィーな演奏が素晴らしい「Flying Easy」、間髪入れず繋ぐ「Valdez In The Country」のしなやかなラテン・ジャズ・グルーヴ。まさかこれらの曲のライヴ音源が聴けるなんて、と当時目頭が熱くなったことを憶えている。その感動はダニーの代表曲「Someday We'll All Be Free」で頂点に達する。この3曲がカーネギー・ホールでの録音。
ゴスペルとジャズとソウルが高次元で結びついた、ダニーならではの重厚かつ荘厳な表現が胸を打つバラード「He Ain't Heavy,He's My Brother」、誰もが知る有名曲を完璧にダニー流儀のソウルに塗り込めるビートルズ「Yesterday」のカバーの2曲がトルバドゥールでの録音。ということは、もちろん演奏はフィル・アップチャーチを含むあの面子。
「Superwoman」はロスでの音源だが、この選曲にもちょっと驚く。ダニーがライバル視していただろうスティーヴィーのカバー。その成功に羨望の眼差しを向けていたという、年下のライバルの有名曲をカバーしたダニーの胸中たるや。しかし、だからこそと言うべきか、ここでのダニーの表現はスティーヴィーとはまた別の、もうひとつのオリジナルと言っていいほどに昇華されている。
その他の既発曲の素晴らしさは言わずもがな。これからダニーを聴こうという人には、その入り口として打ってつけのCDと言える。ただやはり、長年『Live』『In Performance』に親しんできた身としては、それらの曲はそれぞれのアルバムでこそ楽しみたいもの。