black album
The Black Album/Prince
 Warner '94

個人的にプリンス初体験となったアルバム『Lovesexy』の直前に、リリースが予定されながらお蔵入りとなった本作『Black Album』。当時のことは何となく憶えているが、たしか発売日の数日前になって急遽キャンセルとなり、えらい騒ぎになっていたように記憶している。その頃はまだプリンスのことをよく知らなかったのだが、この『Black Album』をめぐる騒動は、そんな九州の片田舎の中学生の耳にまで届いていた。
このアルバムを制作するに至った背景や、お蔵入りとなった理由については諸説あるが、それらについてプリンス自身はっきりと語っていないように思う。プリンスのクリエイティヴィティがピークにあった頃だけに、アルバムの出来は文句のつけようがない。全8曲中7曲がファンクで、幅広い音楽性を誇る殿下が、敢えてファンク一点に収斂してみせた姿勢は、他のアルバムとは明らかに様子が異なる。そもそも『Black Album』と言うタイトルも通称であって、本来は黒一色のジャケットに無題・無名でリリースするつもりだったという話もあり、特異な制作動機であったことは間違いない。内容は、流石に全曲が「Housequake」級とはいかないが、あたかもシングルB面のファンク・チューンをアルバム1枚にまとめたかのような、殿下汁濃厚なファンク・アルバムに仕上がっている。何でも本作のブートレグは500万枚以上のセールスを記録したとかで、フツーにリリースしていたら少なくとも『Lovesexy』よりは売れていたように思うが、自分もそうだったように、より音質のいいブートを求めて何枚も買ったファンは多かったハズ。それだけに、94年になって、ワーナーとの契約消化のためにあっさりと正規リリースされた時は何だか拍子抜けしたものだが、こうした殿下の言動を思うにつけ、本作の制作動機もキャンセルした理由も、巷で噂されるようなシリアスなものではなく、殿下の単なる気紛れに過ぎないようにも思えてくる。
アルバムは初っ端から高カロリーのプリンス・ファンクの連投。「Le Grind」は、拉げたドラム音、ジャジーなピアノ、歌詞には『Parade』以来のおフランス趣味も交え、80年代のプリンス・ファンクの精髄がギュッと詰まっている。「Cindy C.」はよりタイトなファンクで、通してファルセットで歌う。プリンスはホーン・アレンジに独自の色があるが、管は唯一プリンスが自分で演奏しない(できない)楽器だけに、80年代後半におけるエリック・リーズとアトランタ・ブリスの貢献度は高い。この曲のホーン・アレンジもプリンスの曲でしか聴けない類のもの。キャットのラップも含め、そのまま『Lovesexy』に通じる雰囲気がある。「Dead On It」は、重く叩きつけるドラム・ビート、ファンキーなカッティング、殿下のへなちょこラップが妙にカッコいいへヴィ・ファンク。唯一の非ファンク曲「When 2 R In Love」は、『Lovesexy』にそのまま収録された可憐でエロティックなスロウ。
「Bob Geroge」はシンセ・ドラムが淡々とリズムを刻むなか、加工され低く潰れたプリンスの声が終始喋り倒す。ギターの嘶きや機関銃やパトカーのSEなどが挿入され、何やら尋常でない物騒な雰囲気を醸す異形のファンク。「Superfunkycalifragisexy」は、「Controversy」直系の細切れのカッティング、ラップ風早口ヴォーカルのスピーディーなファンク。「2 Nigs United 4 West Compton」は、ギャングスタなタイトルとは裏腹に、チェイス感溢れるなジャズ・ファンク・インストで、マッドハウス的。途中珍しく長めのベース・ソロでスラップをキメまくる。ラストの「Rockhard In A Funky Place」はカミール・ヴォイスのミッド・ファンクで、これもややジャジーな雰囲気はあるが、途中ジミヘンばりのギター・ソロが入る。