trombipulation
Trombipulation / Parliament
 Casablanca '80

パーラメント栄光の歴史に終止符を打つカサブランカ時代の最終作。
実は、このアルバムはそんなに良い作品とは思っていなかった。いや、もちろんこのアルバム自体好きだし、特に「Let's Play House」はPファンクの中でも10指に入ると思っているのだけれど、それ以前の凄すぎるクラシック・アルバムの数々と比べると随分落ちるというのが個人的な評価で、最初に当ブログでレヴューした時にもそのように書いた。
しかし、時とともに作品に対する評価も変わってくるもので、本作はPファンクに限らず80年代のファンク・アルバムの中でもかなり上位に位置する傑作なのではないかと、今では思う。パーラメントの作品の中では、ここ2~3年は『Motor Booty Affair』『Gloryhallastoopid』よりも聴く頻度は多くなっている。

それまでのパーラメントの作品と本作に違いがあるとすれば、それは参加メンバーの顔触れに大きな変化が見られることだろう。
ジョージ・クリントンの右腕であり、Pファンク軍団の番頭格だったバーニー・ウォーレルは、本作では3曲のみの参加に留まり軍団からフェイド・アウトしかかっている。また、新たなブレーンとして迎えられ「One Nation Under A Groove」「(Not Just) Knee Deep」というファンカデリック2大ヒットに大きく貢献したジュニー・モリソンの関与も限定的。
更に、ゲイリー・シャイダーやマイケル・ハンプトン、タイロン・ランプキンといったPファンク黄金期の主要メンバーにも、ほとんど出番が与えられていない。コーデル  "ブギー" モッソンに至っては、クレジットのどこを探しても名前を見つけることができない。

そうなると必然的に、ブーツィーにかかる負荷が重くなってくるのだが、その一方でデイヴィッド・スプラドリー(デイヴィッド・リー・チョン)やドニー・スターリング、ライジ・カリーらPファンク第3世代とでも言うべき新顔が多く名を連ねている。そのうちのメンバーの何人かは79年頃からPファンク関連の作品に参加しており、その頃からクリントンは彼ら若手メンバーの実力を測りつつ、来るべき80年代へ向けて新しいフェーズへと移行するべく入念に準備していたのではないか、とも思える。
本作はブーツィー主導の曲と、若手メンバー中心に制作された曲とに大別されるが、それも本作で初めて曲ごとのクレジットが明記されるようになったから分かること。で、やはり良いのは、(若手連中も健闘してはいるが)ブーツィー主導の曲の方だろう。

アルバムのオープニングを飾る「Crush It」はブーツィーがプロデュース/アレンジにベース、ギター、ドラムスを演奏。つまりほとんどブーツィー1人で作った曲(なお、もちろんクリントンはすべての曲でプロデュース/作曲に関わっているので、各曲個別には特に言及しない)。
何というか、非常にフレッシュに響くサウンドで、明らかに80年代仕様にアップデートされている。同時期のブーツィーのソロ作『Ultra Wave』に近いサウンドとも言えるが、こちらの方が音に厚みがあるように感じるし、ヴォーカル表現もより多彩(このあたりはやはりクリントンの手腕が光る)。

キーボードは新顔のスプラドリーで、この人はブーツィー制作曲と若手主導曲の両方に参加しており(全曲ではない)、本作のキー・パーソンと言ってよさそう。80年代型Pファンクの要となるズブズブ沈み込むような粘着系シンセ・サウンドで、実質的にバーニーの後釜としての役割を果たし、これ以降もクリントンの1stソロ・アルバム『Computer Games』収録の超特大ヒット「Atomic Dog」や、Pファンク・オールスターズ名義のアルバム『Urban Dancefloor Guerillas』(「Pumpin' It Up」は「Atomic Dog」+「Dance Floor」な感じで超強力!)でもMVP級の貢献をしている。
なお、ジャケットにデカデカと登場しているとおり、本作のストーリーの主役はDr.ファンケンシュタインでもスターチャイルドでもなく、サー・ノーズ・ディヴォイドオブファンク。そのサー・ノーズがこのオープニング・チューンで早速大暴れ、例の甲高い加工ヴォイスでの喋くりがまたファンキー。

アルバム・タイトル曲「Trombipulation」も「Crush It」と同じ布陣で、ブーツィー色濃厚なヘヴィーにバウンスするファンク・チューン。前曲同様に抜けのいいブーツィーのドラムスがカッコよく、本作中ではこの曲が最もオールド・Pファンク・スタイルな印象を受ける。
ブーツィー主導曲最後は「Let's Play House」。後期パーラメントを代表する傑作ファンクで、ジュニーが共同プロデュースにヴォーカル、そしてキーボードとシンセ・ベースはバーニーだ(そしてファンク・ブルース名盤『Black & Blue』で知られるブルース・ハーピストのリトル・サニーが何故か参戦)。この面子で悪くなるハズもなく、当然本作のベスト・トラック。ジュニーのセクシーなファルセット・ヴォーカルも最高に冴えわたる。
先にも述べたとおり、個人的にも大好き曲で、この曲をサンプリングしたデジタル・アンダーグラウンドの1stアルバム『Sex Packets』収録の「The Humpty Dance」を聴いたことが、Pファンクへとハマっていくきっかけのひとつとなった。
ちなみに、ここまでの3曲でホーン・アレンジを手掛けているのはフレッド・ウェズリー。ファンクにおけるホーン・セクションの扱いにおいて、やはりこの人の右に出る者はそうはいない。この3曲でも素晴らしいホーン・アレンジを聴かせてくれる。

ジュニーがプロデュースした「Long Way Around」は本作中で唯一作曲に加わったバーニーの鍵盤やシンセサイザーを中心に据えた曲で、ドラムスはブーツィー。ストリングスも冴えるスペイシーで壮麗な異色曲で、ストリングスとホーン・アレンジを手掛けるのはベテラン・アレンジャーのトニー・カミロ。
余談だが、自分にとってパーラメント初体験となった、90年に日本で編纂されたパーラメントのノンストップ・ミックスCDに、「Let's Play House」も含む錚々たるPファンク・クラシックスと並んで、この「Long Way Around」が収録されていた。今思えば、特に有名曲でも人気曲でもない(と思う)この曲が収録されていたのは不思議ではあるが、それもあってか個人的には今でも大好きな曲だ。

これらPファンク・レジェンド達の手による曲は流石の安定感と充実度だが、若手メンバー主体による残りの曲はちょっと物足りない、と以前は感じていたのだが。もちろん、ブーツィーらの曲ほどではないが、フレッシュで勢いのあるなかなかの力作揃いだと、今では思う。
中でも人気なのはシングル曲の「Agony Of Defeet」だろう。以前はこのパワー・ポップ・ファンクが少々煩く感じられて個人的にはあまり好きじゃなかったのだけれど、今ではすごく好きな曲だったりする。
ズッシリ重厚なヘヴィー・ファンクの「New Doo Review」にはマイケル・ハンプトンがギターで、ブーツィーがドラムスだが、ベースはライジ・カリーに譲っている。Pファンクらしいナスティなヴォーカル・ワークが聴ける「Body Language」にはタイロン・ランプキンが参加。ホーン・アレンジはフレッドが手掛けており、やはりここでも素晴らしい仕事ぶり。
アルバム・ラストの「Peek-A-Groove」はバーニーがホーンとストリングス・アレンジを手掛けていて、終盤はバンドの演奏もヴォーカルも熱く盛り上げる。

なお、現行CDにはボーナス・トラックとして「Oh,I」のパーラメント・ヴァージョンを収録。ファンカデリック『Electric Spunking Of War Babies』収録の正規版もいいが、ストリングスとホーン・セクションが効いたこちらのヴァージョンもいい。


2015.2.2 投稿、2021.12.4 改訂