midnight love
Midnight Love/Marvin Gaye
 Columbia '82 

諸々のトラブルから、追われるようにアメリカを離れ、ベルギーで隠遁生活を余儀なくされたマーヴィン。モータウンからも見限られ、経済的に困窮したマーヴィンは、それでも再起をかけレコーディング活動を再開。スタジオ・ミュージシャンを雇う金も無く、マーヴィン1人でリズム・マシンと格闘しながら作ったデモ・トラックに、商品としての体裁を整えるためギターとホーン・セクションを入れて完成したのが本作『Midnight Love』。
TR-808の打ち込みリズム・トラックはチープだが、マーヴィンの素晴らしいヴォーカルがそれを補って余りある。特に大ヒットしたシングル「Sexual Healing」は、マシンの刻む淡白なリズムに、レゲエっぽいニュアンスも感じさせるギターが絡むことで、何とも艶っぽいグルーヴを生んでいる。生身のミュージシャンによる演奏でなくても、やり方によっては血肉の通ったソウルフルな曲になることを証明して見せた「Sexual Healing」は、まさに革命的な名曲。この曲が大ヒットしたことで、以降のほとんどのソウル・シンガーのプロダクションは、「Sexual Healing」を追随。マーヴィンの発明したこの便利なR&Bテンプレートは只管使い回され、TR-808のチープなリズムと人工的なカウベル音は、80年代を通じて多くのR&Bヒット曲で鳴り響いた。
惜しむらくは、結果的にこれがマーヴィンの遺作となってしまったこと。マーヴィンが生きて、「Sexual Healing」の次を示していれば、80年代のソウル・ミュージックの潮流は変わっていたかもしれないし、現在のR&Bもまた違ったカタチになっていたかもしれない。
アルバムは、やはり「Sexual Healing」に尽きるのだが、他の曲も充実している。「Midnight Lady」はファンキーなアップ・ナンバーで、軽快なフットワークを踏むマーヴィンのヴォーカル・ワークがやはり素晴らしい。「Rockin' After Midnight」もダンサブルなアップ。チープなトラックを肉付けするホーン・セクションがカッコいい。やはりホーン・セクションが盛り立てるアーバン・ファンク「Joy」もなかなか。
ミッドナイト感横溢のピロウ・トーク系スロウ・ジャム「'Til Tomorrow」、『Here,My Dear』『In Our Lifetime』の流れを汲むようなミディアム・グルーヴ「Turn On Some Music」、「Sexual Healing」の続編的な、気持ちよくウネるリズムの「My Love Is Waiting」と、ミディアム~スロウ系の曲は流石のカッコよさ。