funkadelic
Funkadelic
 Westbound '70

ファンカデリックの記念すべき1stアルバム。
60年代後半、スライやジミヘンなど、若き新時代の黒人ミュージシャンが台頭してきた頃。ジョージ・クリントンは地元デトロイトのプレインフィールドで、床屋の傍らドゥー・ワップ/コーラス・グループ、パーラメンツを率いて活動、「Testify」などのシングル・ヒットもあり、またクリントンはモータウンとライター契約を結ぶなどしていたが、なかなか浮上のきっかけを掴めず燻っていたようだ。そんな頃、音楽的にも商業的にも成功しスターダムを駆け上がったスライは、クリントンに取って大きなヒントとなっただろうし、大いに触発されたに違いない。
紆余曲折あって結局、クリントンはパーラメンツのバック・バンドの若いミュージシャン達=エディ・ヘイゼル、タウル・ロス、ビリー・ネルソン、ティキ・フルウッド、ミッキー・アトキンスの5人を、ファンカデリックという名前でウェストバウンドからアルバム・リリースさせる(裏ジャケにはアトキンスに替わってバーニー・ウォーレルが写っているが、録音には不参加)。クリントンよりもひと回り若い彼らが、クリントン以上にジミやスライに刺激を受けていただろうことは想像に難くない。本作は伝統的なソウル・ミュージックのスタイルとはあまりにかけ離れているし、ファンキーではあるがそれ以上にサイケデリック。バンド名の由来には諸説あるが(ビリーのアイディアだというのが有力)、ファンク+サイケデリック=ファンカデリックというのは、バンドの音楽性を実に端的に表現している。
アルバムは、サイケデリックとアシッドの渦に飲み込まれた、エログロ・ドス黒・ドロドロの怪しげなグルーヴに満ち満ちている。スライの1stに『暴動』のダウナーな感覚を持ち込んだような感じと言えばいいか。1曲目の「Mommy,What's A Funkadelic?」から、黒いサイケデリックな音がぐるぐると渦巻く。オカルトじみたダークで奇怪なムード、強烈な体臭を放つ噎せ返るようなスモーキン・グルーヴの、とにかく物凄い曲。ジャクソン5がカバーした「I Bet You」は、ノーマン・ホイットフィールド期のテンプテーションズをもっとダークにした感じのサイケデリック・ファンキー・ソウル。この2曲は意外にも、モータウンのファンク・ブラザーズが大きく関与しているらしい。モータウンのポップ・ソウル黄金期を支えながら、ファンク・ブラザーズが一方ではこんな暴力的で病んで捻じれたグルーヴを発散していたとは。
残りの曲は正真正銘、ファンカデリックの演奏だが、先の2曲に通底する世界が深掘りされている。魑魅魍魎が跋扈するようなオドロオドロしい雰囲気の「Music For My Mother」は、スワンプなグルーヴが粘りつくブルージー・ファンク。「I Got A Thing,You Got A Thing,Everybody's Got A Thing」は掻き毟るようなワウ・ギターがフリーキーかつファンキー。「Good Old Music」は、ティキのドラムスが牽引するルーズなグルーヴを軸に、エディのギター、ビリーのベース、ファジーを中心にしたパーラメンツによるヴォーカルがワサワサと絡む傑作ファンク。泥臭いブルーズの「Qualify And Satisfy」、不気味なアシッド・グルーヴ「What Is Soul」と、暗く深い闇に飲み込まれそうな錯覚に陥る。
現行CDには更にボーナス・トラック7曲を追加収録。「Can't Shake It Loose」はアルバム本編が嘘のようなノーザン・ソウル調。「As Good As I Can Feel」はやや軽めのインスト、「Open Our Eyes」はエディがリードを取るゴスペルで、なかなか興味深い。