everything is everything
Everything Is Everything/Donny Hathaway
 Atco '70

ダニー・ハサウェイの記念すべきデビュー作。
ブルースのメッカ、シカゴに生まれ、神童と呼ばれた幼少期からゴスペルを歌い、名門ハワード大学に進学しクラシックを学んだエリート中のエリート。従来の黒人アーティスト像に収まらないそのスケールは、大学で正規の音楽教育を受けた経験によるところが大きい。その後、カーティス・メイフィールドに認められ、カートムのアレンジャーとして裏方仕事をしていたが、キング・カーティスにフックアップされ、アトランティックとサインを交わす。
本作がいかに画期的であったか、付けも付けたり『新しきソウルの光と道』という邦題が、その時代その瞬間の空気を見事に表現している。スタックスなどのサザン・ソウルとも、モータウンのようなポップ・ソウルとも違う、ジャズやゴスペル、クラシックの要素さえ掌中にした、洗練された都会派ソウル。アトランティックが本拠を置くニューヨークの都市の音をイメージさせるサウンドに、時に社会的なメッセージを込めた歌詞を乗せ、ゴスペル仕込みの深くソウルフルなヴォーカルで歌う。まさに70年代=新時代のソウル・ミュージックの一筋の光明、道筋とでも言うべき音楽を、ダニーはこの1枚で示して見せた。同じ70年には恩師カーティスがソロ・デビュー作をリリース、カーティスはインプレッションズ時代から黒人同胞を鼓舞する歌詞を歌ってきた人だが、従来のR&B公式=3分間ポップスの概念を打ち破るプログレッシヴな作風を展開するのはソロになってから。アイザック・ヘイズ『Hot Buttered Soul』という例外的な先例はあるが、いわゆるニュー・ソウルと呼ばれるムーヴメントの嚆矢となったのは、その広範な影響力から鑑みれば、ダニーとカーティス各々の1作目と見るべきだろう。何しろ、マーヴィン・ゲイ『What's Going On』よりも1年早く、スティーヴィーはまだヒッツヴィルのポップ工場の中にいた頃なのだから、この『Everything Is Everything』の先駆性は明らかだ。
アルバムはダニーとリック・パウエルの共同プロデュース。フィル・アップチャーチ、ルイス・サタフィールド、モリス・ジェニングスなどのシカゴ人脈が参加。「Voices Inside(Everything Is Everything)」でアルバムは幕を開ける。ジャズやゴスペルっぽさを宿した、新しい感触のグルーヴィーなソウル・ミュージック。ポップで洗練されたソウル・バラード「Je Vous Aime(I Love You)」、レイ・チャールズのカバー「I Believe To My Soul」、ジャズ・スタンダード「Misty」、場末の酒場でジャムってるような雰囲気のジャズ・ファンク「Sugar Lee」、ハワードの同窓にしてルーム・メイト、リロイ・ハトソンとの共作「Tryin' Times」はブルージーなシャッフル調。「Thank You Master(For My Soul)」は、いかにもダニーらしい重厚なゴスペル・ソウル。アルバムに先駆けてシングル・リリースされた「The Ghetto」もハトソンとの共作。マスター・ヘンリー・ギブソンのパーカッションを効かせたクールでグルーヴィーなラテン・ファンクは、ニュー・ソウルの構成要素を定義付けた重要曲。ラストはウェルドン・アーヴァイン作、ニーナ・シモンの「To Be Young,Gifted And Black」。ダニーの代名詞とでも言うべき、感動的なゴスペル・ソウル。