trouble man
Trouble Man / Marvin Gaye
 Tamla '72 

『Shaft』『Superfly』が映画・サントラとも大ヒットしたことを受けて、1972年以降はブラックスプロイテーション・ムービーのサントラを著名黒人アーティストが手がけるケースが増加。ボビー・ウォマック『Across 110th Street』、ロイ・エアーズ『Coffy』、ウィリー・ハッチ『Foxy Brown』などの他、御大JBまでもが『Black Caesar』『Slaughter's Big Rip-Off』 と2枚も制作するなど、ニュー・ソウルの盛り上がりとリンクするような形で、この動きは70年代前半に大きなうねりとなった。
マーヴィン・ゲイもそのうちの1人。ニュー・ソウルの金字塔となる『What's Going On』の大ヒット後にリリースした、同路線のメッセージ性の強いシングル「You're The Man」がまさかの不発。予定していたアルバムもお蔵入りとなり、次なる展開を模索していたであろうなかで手がけたのが本作『Trouble Man』。

映画本編の方は興行的に失敗し評価も高くないようだが、マーヴィンのサントラの方は現在ではカルト・ソウル・アルバムとして一定の評価を得ていると思われる。
マーヴィン自身も、自分のアルバムの中で本作が1番好きだと語っていたこともあったようで、当時スティーヴィーから貰ったムーグ・シンセサイザーを夢中でイジリ倒していたらしく、本作にはマーヴィンが演奏したと思われる変なムーグの音がたっぷり入っている。
アルバムの大半がインストで、マーヴィンのヴォーカルが入っている曲でも素材としての使われ方がほとんど。1曲通してちゃんとした歌詞のついたメロディーを歌っているのはシングル・リリースされた「Trouble Man」のみ。いかにもサントラ然とした、ビッグバンドによるジャジーなサウンドであり、『What's Going On』や『Let's Get It On』『I Want You』などの名作群と同列に扱うことはできないが、マーヴィンの才気は十分に感じ取れる。

ビッグバンドによるオーケストレーションが重厚なテーマ曲「Main Theme From Trouble Man Part.2」からアルバムはスタート。「"T" Plays It Cool」は曲を通してループされるドラム・ブレイクに、グニョグニョ蠢くムーグと咽び泣くサックスが乗るカッコいいジャズ・ファンク・トラック。いかにも劇伴的な「Poor Abbey Walsh」は終盤マーヴィンのヴォーカルも入る。ヒタヒタと忍び寄るような曲調がスリリングな「The Break In(Police Shoot Big)」、「Cleo's Apartment」はブルージーなムードでマーヴィンの多重コーラスも映える。

アルバムの核となる楽曲「Trouble Man」は、暗闇に溶け込むマーヴィンのファルセット・ヴォーカルがヒリつくようなカッコよさ。
メイン・テーマのよりムーディーなヴァージョン「Theme From Trouble Man」、エッジの効いた乾いたコンガが突き刺さるジャズ・ファンク「"T" Stands For Trouble」、パート2よりもジャジーな感触の「Main Theme From Trouble Man Part.1」、マーヴィンの声で一瞬にして空気が変わる「Life Is A Gamble」、ムーグと取り留めもなく戯れた「Deep-In-It」、哀愁テーマをビッグ・バンドで盛り立てた「Don't Mess With Mister "T"」、短いクロージング「There Goes Mister "T"」まで、目の前に映像を喚起するようなサウンドは映画音楽として優れている。