the other side
The Other Side / Lynden David Hall
 Cooltempo '00 

UKの才能ある自作自演派アーティスト、リンデン・デイヴィッド・ホール。
Pファンクのグレン・ゴインズと同じ病、ホジキン・リンパ腫により2006年に31歳の若さで他界。その才能に見合うだけの評価と成功を手にすることなく短い生涯を終えた不遇のアーティストだが、生前に残した3枚のアルバムはいずれも傑作。
3枚の中では、一般的には97年の1st『Medicine 4 My Pain』が最も知られた作品だと思うが、その音楽性からディアンジェロ・フォロワーの烙印を押され、キャリアを通じてこの呪縛に捕らわれ続けることになる。確かに、「Sexy Cinderella」「Do I Qualify?」など『Medicine 4 My Pain』の核となる曲は、ディアンジェロ『Brown Sugar』に通じるムードを持っていたし、マーヴィン・ゲイやアル・グリーンを範とするファルセット主体のヴォーカルは、ディアンジェロと聴き間違えるほどよく似ている。『Brown Sugar』リリース時には既に『Medicine 4 My Pain』を制作していたと言うから、リンデン自身ディアンジェロに影響を受けたということではない。マーヴィンやプリンスといった同じルーツを持つ同世代の黒人男性アーティストが、USとUKでほぼ同時期にその才能を開花させた結果であり、その2人の音楽が表面上似て聴こえるのは必然と言えるのかもしれないし、それは類似ではなく共鳴とか共振と呼ぶ方が相応しい(リンデンのフェイバリットがスライ『Fresh』とオハイオ・プレイヤーズ『Skin Tight』だという話も、ディアンジェロとの共鳴ぶりを物語る)。
そんなリンデンとディアンジェロは、各々2ndアルバムを同じ2000年に(またもディアンジェロがちょっとだけ先んじて)リリースする。本作『The Other Side』は、ヒップホップ通過後のビート感はやや後退し、70年代ソウルの肌触りを纏った、温もりのあるソウル・ミュージック。黒さ滴るファンクネスを発露した『Voodoo』とは当然ながらまったく違う、同じルーツを持ちながらも自分自身の表現を追求した先に行き着いた本作もまた名作。個人的にはこの2ndがリンデンの最高傑作だと思う。
ファンキーなR&Bトラック「If I Had To Chose」や、ネオ・ソウル調の「Forgive Me」、クールな「Are We Still Cool?」たりは前作からの連続性を感じさせるし、プリンスを通じて『Voodoo』と繋がっているような「U Let Him Have U」のようなダークな曲もあるが、その他の曲は柔らかくテンダーな雰囲気で、甘く纏わりつくようなファルセットに絆される。曲調もファルセットもカーティス・メイフィールドを思わせるスロウ「Say It Ain't So」があるかと思えば、カーティス制作のステイプル・シンガーズ「Let's Do It Again」のカバーもある。ラファエル・サディークっぽいギター・ループが耳にこびり付く「Hard Way」、軽やかにエッジを刻むアコースティック・ギターが気持ちいい「Where's God?」、アル・グリーンっぽく迫るサザン・スロウ「To Be A Man」、微睡みのミディアム・スロウ「The Other Side」、アコギ弾き語りの琴線を震わすバラード「Don't Wanna Talk」など、いい曲ばかり。「Dead And Gone」はその後の彼の苦難を思うと泣けてくる。