keep on runnin
Keep On Runnin' / Black Heat
 Atlantic '75 

ワシントンDCで結成されたファンク・バンド、ブラック・ヒート。
71年に1stアルバム『Black heat』でデビュー。この時点での正規メンバーは6人だったが、続く72年の2nd『No Time To Brun』から7人組となり、ギタリストが交代した75年の『Keep On Runnin'』まで、いずれもアトランティックから3枚のアルバムをリリースしている。

その3枚はどれも70年代ファンクの傑作。いずれの作品も、当時アトランティックの専属プロデューサーだったジョエル・ドーンとジミー・ダグラスがプロデュースを担当している。このうちドーンは60年代半ばからジャズ系の作品でプロデューサーとして活動していたが、ダグラスは70年代に入ってからアレサ・フランクリン『Spirit In The Dark』やダニー・ハサウェイの2nd『Donny Hathaway』などでエンジニアとしてキャリアをスタートした人で、プロデュース・ワークとしてはブラック・ヒートの諸作が最初期の作品となる。
ダグラスはその後、アトランティック系列のコティリオンに所属していたスレイヴもプロデュース、90年代以降も数多くのR&B/ヒップホップ作品でミックスを手掛ける売れっ子エンジニアとして名を馳せるが、キャリアを築く足掛かりのひとつとなったのがブラック・ヒートの作品だったと言えるだろう。

3枚のアルバムのなかでは、『Rare Groove A to Z』に掲載された野卑なアフロ・ジャズ・ファンク・サウンドの1stや、『US Black Disc Guide』掲載の激熱ファンク盤2ndが人気だろう。自分もどれをベストに挙げるかと問われれば2nd『No Time To Burn』を推すが、3rdアルバムとなる本作『Keep On Runnin'』も非常に充実した内容を誇る。ファンク・アルバムとしての完成度は本作がNo.1かもしれない。

まず、このジャケットがイイ。バンド名入りの揃いのTシャツを着て夕陽に向かって走っていくメンバーの後ろ姿、そして路面にはアルバム・タイトル "KEEP ON RUNNIN'" の文字。よく見ると、長い道のりの先にあるのは太陽ではなくゴールド・ディスクだ。つまり、彼らはバンドの輝かしい成功を目指して走り続けているのだ。
しかし、その道のりはまだ果てしなく遠い。そして、陽はもう沈みかけている。成功を手にするまでに彼らに残された時間は、もうほとんど残されていない。このジャケットが彼らの置かれていた状況を物語っているようにも思え、何だかちょっと切なくもなってしまう。そして結果的には、本作がブラック・ヒートの最後のアルバムとなってしまった。
その後のブラック・ヒートのメンバーの動向は何も分からない。バンドは解散してしまったのか、それとも解散せず、地元DCで地道にライヴ活動を続けたのか。Discogsで調べた限りでは、ブラック・ヒートのメンバーの他作品への参加などはほとんど無い。

ブラック・ヒートは商業的な成功を手にすることなく、その名は一部の酔狂な好事家を除けば忘れ去られてしまった。しかし、この時代にはアルバム1枚はおろかシングル1枚も残せず消えていった無名のファンク・バンドが星の数ほどあったことを思えば、アルバム3枚をリリースし黒人音楽の歴史に僅かでも名を残すことができた彼らは、十分に成功したと言えるのかもしれない。

前2作も相当に黒く熱いが、本作も彼らのファンク魂がビンビンに伝わってくる熱いアルバム。特にバンドの演奏・グルーヴの勢いや一体感、熱い思いを伝えんとするリード・ヴォーカルとコーラスの暑苦しさは、ファンク好きには堪らないものがある。
ビートルズ「Drive My Car」のカバーからアルバムはスタート。ロックとは縁遠い自分でも知ってる有名曲だが、ブラック・ヒートはなかなかゴキゲンなファンキー・ナンバーに仕上げており、バンドの一体感が伝わってくるようなグイグイとドライブする演奏がイイ感じ。
続く「Zimba Ku」はドラム・ブレイクからのヒップなフルートが舞う、粘っこいグルーヴとヴォーカルで熱く盛り上がるアフロ・テイストのミッド・ファンク。おそらくブラック・ヒートの楽曲の中でも最も広く知られたこの曲は、ヒップホップ/R&Bでのサンプリング使用例も多数で、ドラムはエリックB&ラキム「Step Back」やエイドリアナ・エヴァンス「In The Sun」、フルートはピート・ロック&C.L.スムーズ「Take You There」のアウトロ部分でのサンプリング、また丸ごと使ったハード・ノックス「Young Black Male」といったあたりが個人的には印象的。

「Questions & Conclusions」も熱くグルーヴィーに疾走するファンク・ナンバー。渦巻くオルガンと分厚く猛るホーンズに、黒く塗りこめるヴォーカル&コーラスが聴く者の血を滾らせる。「Something Extra」は前曲までで熱く火照った体を冷ますようなメロウ&スウィートなナンバー。しかしリード・ヴォーカル氏は迸る激情を抑えきれず、ここでも熱く歌い込める。
「Feel Like A Child」は重めのビートとジワジワとグルーヴする地味渋ミドル・バラッドで、地を這うようなベースがファンクネスを下支えする。前半はややクールな印象だが、そのまま終わるハズもなく、やはり終盤はヴォーカルもホーンも激熱のソウルが宿る。

「Last Dance」はクチャクチャと刻むギター・リフに被せるクラヴィネットとホーンがファンキーなナンバー。メロウなスロウ・ナンバーの「Baby You'll See」は、甘く流れてしまいそうなところをチャンキーなギターのリズムが楔を打ちつける。
「Love」は粘っこく刻むクラヴィネットにハンド・クラップと暑苦しいヴォーカル&コーラスで盛り上げる、このバンドらしいイナたく汗臭いファンク・ナンバー。スキャットが重なるブリージン・メロウの「Prince Duval」は、このバンドには珍しく終始爽やかな印象で、こんなのもヤレば出来るんだと思ったり。
「Live Together」は余裕たっぷりにグルーヴィーな演奏とホーン・セクションが交錯するストリート・ファンクでカッコいい。ラストのアルバム・タイトル曲「Keep On Runnin'」は、熱い演歌ソウルを歌い込むリード・ヴォーカルと厚く盛り立てるコーラスとホーンの重厚なパートと、ゲットーを疾駆するようなスリリングでグルーヴィーな演奏のファンク・パートが交互にスイッチする。


2015.12.19 投稿、2021.7.14 改訂