never my love
Never My Love : The Anthology / Donny Hathaway
 Rhino '13 

ライノ編纂によるダニー・ハサウェイ究極の4枚組ボックス・アンソロジー。
シングル曲中心にダニーのキャリアを辿るディスク1、未発表曲のみで固めたディスク2、未発表ライヴ音源のディスク3、ロバータ・フラックとのデュエット曲をまとめたディスク4といった構成だが、やはり目玉はディスク2と3。
ディスク2に収められた未発表曲のほとんどは、73年から75年にかけて録音されたもの。つまり、結果的に最後のスタジオ録音作となった『Extension Of A Man』の後に録音された曲ということになる。
神憑りな完成度を誇る稀代の名盤『Extension Of A Man』で、ある意味自身の音楽人生の総決算をしてしまったダニー。それほどの作品でありながら商業的にも批評的にも正当な評価を得られず、苦悩の淵に沈んだダニーはスランプに陥り、悲劇的な最期を迎えることになるのだが、これらの未発表曲を聴くと、そんな失意の中でもダニーが創作意欲を奮い立たせて曲を作っていたことが分かる。
曲の頭にカウントが入っていたり、ヴォーカルを入れる前に制作を止めてしまったと思われるようなインスト曲があったりと、ここで聴ける曲は未完成のものも多いが、それでもダニーに才能の煌きがまだ失われていなかったことが十分に感じ取れる。
「Never My Love」は美しく力強いバラード、柔らかなカントリー・ソウル「A Lot Of Soul」、軽やかにスウィングするソウル・ジャズ「Let's Groove」、ジャジー・ラテン・ソウルの「Latin Time」、グルーヴィーなメロウ・ソウル「Tally Rand」、スティーヴィー・ワンダー「Golden Lady」を思わせるような極上ミディアム「Memory Of Our Love」、メロウに揺蕩うスロウ「Sunshine Over Showers」、デモ音源的な「Brown Eyed Lady」も貴重。フレッシュなジャンプ・ナンバーの「Don't Turn Away」は一番古い音源で68年録音。「Always Same」は録音年不詳だが、これも60年代末頃のものと思われる。一方最も新しい音源は78年の「After The Dance Is Done」。ディスコ一歩手前で踏み止まったナイス・ダンス・ナンバー。

ディスク3のライヴ音源は、すべて71年ビター・エンドでの録音。面子はコーネル・デュプリー、マイク・ハワード、ウィリー・ウィークス、フレッド・ホワイト、アール・デローン。つまり、あの『Live』B面のアウト・テイク。もうこれだけで震えがとまらないが、デュプリーではなくフィル・アップチャーチが加わってトルバドゥールで録られた『Live』A面の4曲の、デュプリー版もしっかり収録されている。
『Live』においても、ビター・エンドのB面は、A面よりも聴衆のリアクションが控え目で、抑制され内省的な印象を受けるが、このディスク3も概ね『Live』B面に近い感触。『Live』と同じく1曲目を飾る「What's Going On」も、あのザワザワした現場感は薄く、その辺りに不満を持つ向きもあると思うが、決してグルーヴ感は薄められることはなく、よりクリアな演奏を味わうことができると言える。『Live』B面の曲ももちろん別音源で収録されていて(「We're Still Friends」は入っていない)、更に『Live』に入っていない「Sack Full Of Dreams」「He Ain't Heavy,He's My Brother」「I Love You More Than You'll Ever Know」も収録(もちろん、『In Performance』等に収められたこれらの曲とは別音源)。
とにかく、演奏はいずれの曲も素晴らしく、演者たちの生身の息遣いが聴こえてくるようなインティメイトな雰囲気、適度に汗臭いグルーヴ、ジャズやゴスペルを飲み込んだ洗練された音楽性、ダニーの熱くソウルフルなヴォーカルと、聴いていて思わず感涙。「Voices Inside(Everything Is Everything)」や「The Ghetto」は『Live』より更に長尺で、「Voices Inside」なんかは16分超にわたって極上のグルーヴが展開されて、これは堪らない。
こうなってくると、今度は71年トルバドゥールの未発表音源にも期待したくなってくる。当然世に出ていない音源が有るハズで、「Voices Inside」でのフィル・アップチャーチのソロとか想像するだけで興奮してしまう。このアンソロジーから2年以上経っているので、ライノにはそろそろお願いしたいところだ。