back in time
Back In Time / Judith Hill
 NPG '15 

マイケル・ジャクソンのツアーに起用されるなど、知る人ぞ知る存在だったらしい日系人シンガー、ジュディス・ヒル。
コロンビアとアーティスト契約するも、一向にデビューの機会がないまま飼い殺し状態だったジュディスに手を差し伸べたのが我らがプリンス。プリンス・プロデュースのもとペイズリー・パーク・スタジオで短期間のうちにレコーディングされた本作『Back In Time』は、コロンビアに何の断りも入れず、当初無料で配信のみのリリース。当然ながら、コロンビア側はこれに激怒したようで、今後ジュディスのアルバムがコロンビアからリリースされる可能性は消滅したと思われるが、これほどの才能を飼い殺しにしたコロンビアが一番悪い。
こんな経緯を辿った本作、CDリリースの実現は難しいと思っていたが、2016年になってCD化。しかし、『Hit N Run Phase Two』同様にほとんど流通していないようで、仕方なく『Phase Two』と一緒に海外から取り寄せた。
この『Back In Time』、かなりの傑作だ。ジュディスはシンガーとしての実力はもちろんだが、プリンスとの共同プロデュース、作曲でも才能を発揮。プリンスのプロデュース・ワークも見事で、80年代には女性シンガーをプリンス・カラーにベッタリ染め上げオーバー・プロデュース気味だったが、ここではジュディスの持ち味をうまく生かした引きのプロデュース。もちろん演奏の多くもプリンスが担っている。おそらく、プリンスがプロデュースした女性シンガーのアルバムとしては最も出来が良いのではないかと思う。
両親がともにスライやルーファスのバックで演奏していたというジュディス、プリンスにどのようなアルバムにしたいか問われ、スライと答えただけあって、本作は随所にファンクネスが滲み出ている。1曲目の「As Trains Go By」は重く引きずるグルーヴのファンク・チューン。続く「Turn Up」はベティ・デイヴィス顔負けのへヴィー・スロー・ファンクと、いきなりのファンク連弾にテンション上がる。
「Angel In The Dark」は重いビートのダークな曲調だが、それと対比するようなサビの後光射す解放感が、まさに闇の中の天使といった趣き。美しいバラード「Beautiful Life」、ウォーキング・テンポのソウル・ナンバー「Cure」、ジャジーなムードの「Love Trip」、隙間の多いファンク・トラックに分厚いホーン・セクションが乗る「My People」、賑やかに盛り上がるパーティー・ファンク「Wild Tonight」、ブルージーな「Cry,Cry,Cry」、疾走感のあるファンキーな「Jammin' In The Basement」など、多様な曲調を用意し飽きさせないつくり。ラストの「Back In Time」は「Angel In The Dark」同様にジョシュア・ウェルトンが関わった曲で、アブストラクトなトラックが退廃的なムードを醸している。