on the jungle floor
On The Jungle Floor / Van Hunt
 Capitol '06 

90年代に(日本では)ニュー・クラシック・ソウルと呼ばれた音楽。ディアンジェロ、マックスウェルやエリック・ベネイ、ラサーン・パターソンなど、(主に)自ら作曲・プロデュースし、楽器の演奏も多くこなす、独創的な音楽を創造するアーティストたちであり、一括りにNCSと言っても彼らが奏でる音楽はそれぞれに個性的で違っていた。
一方で、ネオソウルという呼称が一般的になった2000年代になると、もちろんその時代にもオリジナリティ溢れる音楽をクリエイトするミュージシャンは存在したが、ネオソウル=生楽器を多く用いる、もしくは生っぽい感触を持つことが定義となっていったようにも思える。"ネオソウル風"と表現されるようなサウンドが確かに存在していたように、サウンドの均質化、テンプレート化が進んでいったように感じる。それにより、メイン・ストリームのR&B歌手のアルバムの中にも1~2曲はネオソウル風の楽曲が含まれるようになるなど、ネオソウルは広く薄くシーン全体に浸透していった。

オハイオ出身のアーティスト、ヴァン・ハントはそのキャリア初期の1999年、ラサーン・パターソンの2ndアルバム『Love In Stereo』のうちの数曲でプロデュースを務めるなどNCSのムーヴメントにも関わりのあった人だが、自身のソロ・アルバムをようやくリリースできたのはそれから5年経った2004年、その時既に34歳だったのだから、かなり遅咲きの苦労人だ。
ネオソウル隆盛の時代にリリースしたその1stアルバムは、プリンスやスライ、カーティス・メイフィールドなどからの影響を感じさせつつも、独創的な表現として完成させた異能のファンク/ソウル・ミュージック。"ネオソウル風"では全くない、NCSの作家主義の精神に満ちた、オリジナリティ溢れる傑作だった。

その2年後、2006年には順調に2ndアルバムとなる本作『On The Jungle Floor』をリリース。
前作の赤っぽい色合いから一転、ブルーを基調にしたジャケットも印象的な本作。メイン・ストリームのR&B公式から大きく逸脱し、もちろんネオソウル風でもない独自性は前作同様だが、一聴してプリンスからの影響がより分かりやすく表現されているようにも感じられ、それはアルバムのオープニングの2曲に象徴的に現れている。

1曲目の「If I Take You Home(Upon...)」は、ムズムズするよなエロいリズムとグルーヴにハントのファルセット・ヴォーカルがネチッこく絡みつくファンクで、プリンス趣味モロ出しで素晴らしいとしか言いようがない。
続く「Hot Stage Lights」はギリギリとタイトに張りつめたファンクで、ちょっとプリンスの「Uptown」っぽいフレーズも交えたハントのヴォーカルが変態的で最高過ぎる。前作でもプリンスの影はそこかしこに垣間見えたが、本作、特にこの2曲でのプリンス・チルドレンっぷりはかなりのインパクトだ。
しかし、けっしてプリンスの模倣に終わらず、ハントにしかヤレない音楽になっているのが素晴らしい。おそらくハントには遺伝子レベルでプリンスの音楽が組み込まれているが、他にもスライやカーティスなどの70年代のファンク/ソウル偉人からの影響や、作曲やプロデューサーなどの裏方稼業から得た経験など、様々な要素を咀嚼・吸収しオリジナルなサウンドとして排出している。

他にも、半生エレクトロなミッド・グルーヴ「Being A Girl」や、モゾモゾと蠢くミドル・チューンの「Priest Or Police」など、スライ「Family Affair」やプリンス「The Ballad Of Dorothy Parker」などのクールに抑制された密室ファンクを引き合いに出したくなる、と言っては褒め過ぎか。セクシーに身悶えするファンク・チューン「Suspicion(She Knows Me Too Well)」もスライ~プリンス的だ。「Character」はザックリとしたストリングスも入って、ヴォーカルも含めて74~75年頃のカーティス・メイフィールドを思わせるヒリヒリした空気が張りつめる。
音数少ない演奏に妙に生々しいヴォーカルが塗りこめられる「No Sense Of Crime」、ポップでキュートなのにどこか捻くれた感じのする「The Thrill Of This Love」や「Hole In My Heart」、ピアノが印象的なバラード「The Night Is Young」あたりも良い。

「Ride, Ride, Ride」はストレート過ぎる痛快ロケンロールで、プリンスというよりもレニー・クラヴィッツみたいだ。さすがにコレはもうひと捻りほしいところ。耽美的なロック・バラードの「Daredevil, Baby」や、オリエンタルなムードでデイヴィッド・ボウイ「China Girl」を何となく連想させる「At The End Of A Slow Dance」なんかは、個人的にはあまり好みではないかも。
ニッカ・コスタとデュエットしたロック・バラード「Mean Sleep」は、楽曲自体はそれなりに良く出来ているしヒット・ポテンシャルは感じるが、メジャー志向でハントらしさは薄い。
前作以上に振れ幅の大きい本作だが、ファンク系の楽曲がその変態的な個性を爆発させているのに対し、ロック方面に振れ過ぎた楽曲があまり魅力的に響かないのは、自分が基本的にブラックミュージック・リスナーだからかもしれない。

結局のところ、本作はヒットしなかったようで、キャピトルとのディールはアルバム2枚で切れてしまう。キャピトルはハントにネクスト・レニー・クラヴィッツを期待していたのかもしれないが、ハントがそんな枠に収まるハズもなかった。
2008年には3rdアルバム『Popular』を制作、タイトルに反してメジャー志向やポピュラリティに背を向けた、オリジナリティ溢れるブラック/ファンク/ロック・アルバムを極めていて、ハントの最高傑作となる素晴らしい作品だったが、扱いに困ったブルー・ノートはリリースをキャンセルしてしまう(が、2017年になってデジタルでリリースされた)。このような妥協なき姿勢は、現時点での最新作『The Fun Rises, The Fun Sets』に至るまで貫かれている。