crystal ball
Crystal Ball / The Artist Formerly Known As Prince
 NPG '98 

プリンスの『Crystal Ball』というアルバムは2つ存在する。ひとつは『Sign Of The Times』の原型となった、86~87年に制作されたもののお蔵入りとなった3枚組の"オリジナル"『Crystal Ball』。もうひとつは、98年に例のシンボル・マーク名義でリリースされた未発表曲集3枚組+オマケ1CDの本作。
本作に収められているのは、80年代前半~中期、及び90年代中期に録音されたマテリアル。よって、アルバムとしての統一感はない。正直、内容は玉石混交といった印象だが、その玉の部分の煌きがあまりにも眩い。ブートレグを熱心に聴き漁ったお宝音源が良い音質で聴ける本作は、90年代のプリンスの最重要作と言っていい。
ディスク1はいきなり目玉中の目玉曲「Crystall Ball」からスタート。もちろん、"オリジナル"『Crystal Ball』に収録される予定だった曲。この曲をブートレグで初めて聴いた時は本当にブッ飛んだ。単調なフレーズの反復を軸にしながら、信じられないほどに劇的に展開を重ねる、めくるめく音の冒険。「Sign Of The Times」が音を極限まで削ぎ落とすことでファンクの核心を浮き彫りにした究極の一曲だとすれば、この「Crystal Ball」はあらゆる音楽体験をギュッと詰め込んだもう一方の究極。確かにコレは、アルバム『Sign Of The Times』には入れられない。この曲をオフィシャルな音質で聴けるだけでも、本作を買う価値はある。
アッパーなファンク・チューン「Dream Factory」は、『Parade』の後に制作されながらも、レヴォリューション解散によりお蔵入りとなった2枚組アルバム『Dream Factory』のタイトル曲。やや忙しない曲だが、これも全盛期の凄味を感じさせる一曲。
「Acknowlege Me」は『Gold Experience』用に録音された曲。この当時のプリンスらしい分厚い音のヒップホップ・ファンクだが、コレはなかなかカッコいい。「Ripopgodazippa」は忍び足で迫ってくるような淡々としたムードで、レゲエっぽくもある。ノーナ・ゲイと共演した「Lovesign」のリミックス・ヴァージョンを手がけるのはショックG。って、デジタル・アンダーグラウンドのショックGなのだろうか、詳細は不明。このリミックスはクールなR&Bスムーヴで、原曲よりもこっちの方が好き。「D.M.S.R.」のサンプリングがいいアクセントになっている。「Hide The Bone」はバウンシーなパワー・ポップ・ファンクで、やはり90年代中期の分厚い音。「2morrow」も「Lovesign」系のスムーヴ・トラックで、途中スキャットが入ったりして、ややジャジーな味付け。「So Dark」は『Come』収録の「Dark」の別ヴァージョンで、こちらの方がよりアーバン仕立て。"ディアンジェロお気に入りの1曲"という触れ込みの「Movie Star」は『Dream Factory』に入るハズだったもので、「Delirious」系の曲。元々ザ・タイム用に書かれた曲らしく、80年代前半の匂いがする。「Tell Me How U Wanna B Done」は90年代のハイパーな曲調でコレはパス。
ディスク2の1曲目「Interactive」は『Gold Experience』から漏れたアッパーなナンバー。ブルージーなスタートから突如激しくヘッド・バンギングする「Da Bang」はあまり好きになれないが、渋いミッド・ファンクの「Calhoun Square」は良い。「What's My Name」は典型的なNPG時代のヒップホップ・ファンク。「Crucial」は『Sign Of The Times』にエントリーしていたものの、最終段階で「Adore」に差し替えられたと言われている美麗なファルセット・バラード。ブートで聴けるオリジナル・ヴァージョンに入っていたエリック・リーズのサックスが消されていることから、ここでのヴァージョンは評判が悪いようだが、個人的にはコレはコレで好き。プリンスが「For You」よろしく声を重ねる小曲「An Honest Man」、「Sexual Suicide」は80年代中期のフレッシュなプリンス・ファンクが聴ける。そしてディスク2の目玉「Cloreen Bacon Skin」。ザ・タイムの82年作『What Time Is It?』のレコーディング・セッションにおいて、プリンスとモーリス・デイの2人で録音された曲らしく、15分に渡り延々とドラムスとベースだけでジャムるファンクだが、これがカッコいい。「Good Love」は『Camelle』及び"オリジナル"『Crystal Ball』に収録予定だった曲で、ポップでキュートでファンキーな佳曲。ミュージカル用に書かれたという「Strays Of The World」は、ソレっぽい大仰なつくり。
ディスク3のスタートは粗い感じのラップ・ナンバー「Days Of Wild」。「Last Heart」は『Dream Factory』からの曲で、デモ音源そのままのチープな生々しさが堪らない。フザケた感じのお遊び曲「Poom Poom」、マイテに捧げられたバラード「She Gave Her Angels」、Gファンク調ピーヒョロ・シンセのルーズなファンク・ジャム「18 & Over」、泥臭いブルース・ロックの「The Ride」、『Come』収録の「Loose」のリミックス的な「Get Loose」、『Gold Experience』収録の「P.Control」のリミックス、スライの『Fresh』を聴いた後に録音したという「Make Your Mama Happy」は、確かにスライっぽさを感じなくもない。ラストの「Good Bye」はバラードの佳曲。
『The Truth』と題されたオマケCDは、アコースティックなセットで録音された異色作。アコギの生々しい響きが印象的で、これは意外な良作で気に入っている。タイトル曲の「The Truth」や後の展開を予見するタイトルの「3rd Eye」といったブルーズ・ナンバー、フォーキーな「Don't Play Me」「The Other Side Of Pillow」などは、ほとんどアコギ一本を掻き鳴らしながら歌う。テンダーで美しいバラードの「Circle Of Amour」、キュートな「Dionne」、パーカッシヴな「Man In A Uniform」、早いテンポで駆け抜ける「Fascination」、不思議な浮遊感のスロウ「One Of Your Tears」、儚い美しさを秘めた小曲「Come Back」、ドラマティックな「Welcome 2 The Dawn」など、プリンスの別の一面を見せる貴重な作品集。