love symbol
Love Symbol / Prince & The New Power Generation
 Paisley Park '92 

『Lovesexy』でプリンス・デビューをして以来、毎年リリースされる新作をいつも楽しみにしていたが、91年の『Diamonds And Pearls』でプリンス熱もすっかり落ち着いてしまっていた。当時は、個人的にはPファンクをはじめ70年代のファンク/ソウルを手当たり次第に掘り漁り、また創造性が爆発していたヒップホップの新譜を夢中になって追いかけていた頃で、ファンの目から見てもピーク・アウトしたように感じた当時のプリンスへ期待を募らせることもなく、92年の本作『Love Symbol』も冷めた気分で聴いていた。『Love Symbol』というのは通称で、正式なタイトルは例の両性具有的な記号。読めないタイトルではプロモーションに支障を来たすため、便宜上『Love Symbol』と呼ばれるようになった。
前作に引き続き、かつてのレヴォリューションとはかなり性質の違うバック・バンド、ニュー・パワー・ジェネレーションを率いてのアルバム。シーン全体でイノヴェーションを遂げていくヒップホップに一人対抗せんと、前作からの生バンドによる人力ヒップホップ・ファンクを更に推し進めた内容で、厚ぼったくソリッドさに欠けるバンド・サウンドは、時代から遅れを取ってしまった印象は拭えず、当時は十分に聴き込むことはなかった作品。
しかし、今改めて聴き返してみると、従来のプリンスらしいファンク/ソウルからロック/ポップまで横断した音楽性やアクの強さは十分に感じ取れる力作。個々の楽曲の完成度の高さは言わずもがなだが、肩に力が入り過ぎて、アルバム1枚聴き通すには暑苦しさを感じる。本作でのプリンスは最早時代の先鋭とは言えないが、唯一無二のプリンスの音楽であることは間違いない。
アルバムの1曲目「My Name Is Prince」、これがかなり熱い、と言うか暑苦しい。攻撃的な人力ヒップホップ・ファンクに乗せて「わが名はプリンス、我こそはファンキーなり」と怒気を孕んだラップでガナるプリンス。いや殿下、あなたが超ファンキーなことはみんな知ってますよ、なのに何を今更と言いたくなる曲だが、声を荒げてそう言わなければならないほど追い詰められていたのかもしれない。続く「Sexy MF」は、JBスタイルのオーセンティックなファンク/ジャズ・ファンクで、カッコいいのは間違いないが前曲との落差に戸惑う。「Love 2 The 9's」はキュートでポップなプリンスらしい曲で、個人的には本作のベスト・トラック。「The Morning Papers」は爽快なポップ/ロック・ナンバー、「The Max」はファンキーでダンサブルな曲と、この辺りまでの流れは非常に聴き応えあり。
異色のレゲエ・ナンバー「Blue Light」や、テクノの「I Wanna Melt With U」といった曲は箸休めといった感じ、スロウの「Sweet Baby」はやや薄味で、この辺りはちょっと物足りないところ。アッパーなパワー・ポップ・ファンク「The Continental」は好き嫌いはともかく、完成度は高い。ロマンティックなバラード「Damn U」は「Sweet Baby」よりは良い。「Arrogance」「The Flow」と尺の短いヒップホップ・ファンクを勢いで聴かせた後、「Thieves In The Temple」以来のオリエンタル調「7」、ラテンが仄かに匂う「And God Created Woman」と続く。
アルバム・ラス前の「3 Chains O' Gold」は大作志向の大仰な展開で、個人的にはあまり好みでない。ラストはパワー・ポップ・ファンクの「The Sacrifice Of Victor」で賑やかに幕。