studio recordings intro to the matrix
Studio Recordings Intro To The Matrix / Bob Marley & The Wailers
 P-Vine '05 

ボブ・マーリーは、ピーター・トッシュとバニー・ウェイラーの2人と袂を分かって以降の作品はあまり熱心に聴いていないのだが、これまで聴いた中で一番好きなのは、このアルバム。
『Catch A Fire』リリース後に、ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズはスライ&ザ・ファミリー・ストーンの前座としてアメリカ・ツアーに出たが(バニー・ウェイラーは既に脱退していたようだが)、メイン・アクトのスライを喰ってしまったウェイラーズはツアー途中でクビになってしまう。
73年のスライと言えば、大名盤『Fresh』をリリースするなど、スタジオでの神通力はまだ衰えていなかったが、ライヴ・パフォーマンスの面ではウッドストックの頃のような聴衆を熱狂の渦に巻き込む力は既に無くなっていたので、当時日の出の勢いだったマーリーとウェイラーズのステージの熱量がスライを上回っていたことは想像に難くない。
スライのツアーから離れた代わりに、ウェイラーズはサンフランシスコのクラブ、マトリックスで単独ライヴを行うことになった。そのリハーサルで行われたスタジオ・ジャム・セッションを収録したのが本作で、2005年になってPヴァインが発掘リリースした。

本作はリハーサルだけあって、演奏も録音も結構ラフな感じなのだが、ここで聴ける音は最早レゲエというよりもファンク。カールトン&アストンのバレット兄弟のリズム隊によるスモーキーでヘヴィーなグルーヴ、ファンキーに捩れるギター、焼けつくようなソウルフルなマーリーのヴォーカルなど、スタジオ録音作以上にファンク/ソウルの骨格が顕わになったサウンド。この圧倒的な演奏を聴けば、スライが彼らを遠ざけたのもよく分かる。

1曲目のピーター・トッシュがリード・ヴォーカルを取る「You Can't Blame The Youth」から、凄まじい粘り気と弾力に満ちたリズムで、音楽のスタイルとしてはレゲエだが、強力に躍動するビートはファンク剥き出し。2曲目以降はマーリーのリードで、「Slave Driver」の煙たいグルーヴとマーリーのソウルフルな歌唱に灼かれる。
「Burnin' And Lootin'」の地を這い蠢くドープなグルーヴ、「Rastaman Chant」のアフロなファンクネス、律動するリズムに腰が揺れる「Duppy Conqueror」、「Midnight Ravers」は初期ミーターズがレゲエをやっているかのような、腰のあるファンキーなグルーヴが堪らなくカッコいい。
「Put It On(Lord I Thank You)」での、リズム・セクションが繰り出す強靭なビートは、ファンク耳には堪らなく美味しい。再びトッシュがリードを取った「Stop That Train」、ウネるようなリズムに揉み解される「Kinky Reggae」「Stir It Up」は、聴く者を快楽へと誘う。ダークなムードの「No More Trouble」や、ラストの「Get Up, Stand Up」もレゲエのリズムの根っこにはファンクがどっしりと根付いている。