when we do
When We Do / Junie
 Westbound '75 

ウェストバウンドから3枚の傑作アルバム、 『Pain』 『Pleasure』 『Ecstasy』をリリースした後、オハイオ・プレイヤーズはマーキュリーへと移籍。しかし、音楽的なイニシアチヴを握っていたウォルター"ジュニー"モリソンはウェストバウンドとソロ契約を交わし、バンドを脱退。
ブレーンを失ったオハイオは失速するかと思いきや、ラグジュアリーなエロ路線への方向転換と、ダイナミックなファンク・サウンドへの脱皮に成功し、 『Skin Tight』 『Fire』 『Honey』といった大ヒット作を連発。一躍トップ・ファンク・バンドへと昇りつめた。
一方、ジュニーは基本的に従来路線を踏襲しつつ、その多様でキュートでストレンジな個性と才能を更に突き詰めていく。ウェストバウンドからは3枚のソロ作をリリースするが、一般的な評価と商業的な成功を得ることは叶わず、不遇の時代を過ごすことになる。

オハイオ・プレイヤーズとジュニー、両者の明暗はハッキリと分かれてしまった格好だが、70年代末になると状況は逆転。ヒットが出なくなり、みるみる失速していくオハイオを尻目に、かつてのレーベル・メイトにしてライバルだったファンカデリックへと加入したジュニーは、「One Nation Under A Groove」「(Not Just)Knee Deep」の2大ヒットをモノにする。この時期のPファンクのアルバム、ファンカデリック『One Nation Under A Groove』 『Uncle Jam Wants You』やパーラメント『Motor Booty Affair』 『Gloryhallastoopid(Or Pin The Tale On The Funky)』などは、ジュニーが制作面に大きく関与した作品であり、この頃がジュニーの創作活動のピークだろう。

しかしながら、Pファンク作品ではジュニーの名はまともにクレジットされることはなく、彼の存在と功績はほとんど誰からも顧みられることはなかった。その後は、80年代初期にコロンビアからソロ・アルバム 『Bread Alone』 『5』をリリースするなど、マイペースな活動を続けた。ジュニーのキャリアはオハイオ・プレイヤーズ脱退以降ずっと不遇だったと言え、80年代末頃から、「One Nation Under A Groove」や「(Not Just)Knee Deep」がヒップホップでサンプリングされまくり、世界的なPファンク再評価熱が高まった頃になってようやく、実はあの曲もこの曲もジュニーだった、という事実がクリントンをはじめ当事者達の口から語られるようになった。ここへ来てようやくジュニーは正当な評価を得ることができたが、やはり遅過ぎたと言うより他ない。

本作『When We Do』はジュニーのソロ1stアルバム。ジュニーとともにウェストバウンドに残留したと思しきスキンヘッド嬢の登場も嬉しい(が後の2枚のアルバムでは嬢は不在)。内容的には、バンド時代には抑制していたと思われるジュニーの多面的な音楽性を一気に開放。かなりとっ散らかっているが、コレはジュニーにしか表現できない世界。ファンク・アルバムとしてはオハイオ・プレイヤーズ時代の作品の方に軍配が上がるが、ジュニーのファンであれば愛おしくて堪らない作品だろう。

流麗なストリングス入りの小曲「Junie」からアルバムはスタート。続く「Loving Arms」は意表を突くメロウなファンク・バラード、更に「Johnny Carson Samba」はタイトルどおりのサンバ調のラテン・フュージョンで、オハイオ時代のサウンドを期待すると、かなり戸惑う展開。緩急自在の「The Place」、キモカワ・スウィートなヴォーカルのスロウ「Anna」と聴き進めて行くと、『Bread Alone』あたりの多様な音楽性は既にこの時点から開花していたということが理解できる。

「Tight Rope」でようやくオハイオ時代からの連続性を感じさせるファンク・チューンの登場で、やはりコレは唯一無二のジュニーのスタイルで最高。かと思ったら、「You And You」はシンガー・ソングライター風情の爽やかなポップ・バラードでまたも意表を突かれる。アルバム・タイトル曲「When We Do」は重量級のミッド・ファンク、チャイルディッシュ・ガンビーノみたいな哀愁ナンバー「Married Him」と、振れ幅の大き過ぎる展開もジュニーらしさ。ラストの「Walt's Third Trip」は豪奢なアレンジメントが施されたインスト・ナンバーで、オハイオ時代の「Walt's First Trip」、ソロでのシングル曲「Walt's Second Trip」に続くシリーズ3部作だ。

ウェストバウンド期のジュニーのソロ・アルバムはCD化が進んでおらず、これまでベスト盤で我慢するしかなかったが、この度、シングル曲も含めた全楽曲を収めたコンプリート・ベストがめでたくリリースされ、ようやくウェストバウンド期の全貌を手軽に知ることができるようになった。願わくば、これを期にジュニーの残した素晴らしい作品がより広く知られるようになってほしいものだ。