medicine 4 my pain
Medicine 4 My Pain / Lynden David Hall
 Cooltempo '97 

UKの自作自演派アーティスト、リンデン・デイヴィッド・ホールのことを語る際に散々用いられてきた枕詞、「UKからのディアンジェロへの回答」。

デビュー・シングル「Sexy Cinderella」や、2ndシングル「Do I Qualify?」のサウンドや、ファルセットを交えて浮遊するヴォーカルが、ディアンジェロを彷彿とさせることから、そのように呼ばれるようになってしまった。他の数多のディアンジェロ・フォロワーと一緒くたにされるどころか、その代表格のような扱われ方をされてしまったリンデンだが、実際のところ、この1stアルバム『Medicine 4 My Pain』の制作時期は、『Brown Sugar』とそう大きく違わない。ディアンジェロから影響を受けたワケではなく、ディアンジェロと同じ影響源(プリンス、マーヴィン・ゲイ、アル・グリーン、スライ、オハイオ・プレイヤーズなど)を持つからこそ、両者の1stアルバムは結果として近しいムードを感じるのだが、それぞれ独自の音楽性を確立した2ndアルバム、『Voodoo』『The Other Side』では、カラーの違いがハッキリと現れることになる。それでも、冒頭の枕詞は、リンデンの短いキャリアの最後までずっと付き纏うことになるのだが。

それにしてもこのアルバム、とてもデビュー作とは思えないほどの完成度の高さだ。サウンドやビートの立ち方は、やはり『Brown Sugar』の方がエッジが効いているが、メロディー・メイカーとしての才は、この時点ではリンデンの方が上回っていたように思う。ヴォーカルも、先に挙げた先人達の影響がよりストレートに出ていて、オーセンティックなソウル・マナーを感じさせる。

アルバムはオープニングから、「Do I Qualify?」「Sexy Cinderella」の2大キラー・チューンを連発。ヒップホップを通過したビート感、ジャジーに浮遊する上モノ、たしかに『Brown Sugar』に入っていてもおかしくないほどのサウンドとクオリティ。「Sexy Cinderella」ではミシェル・ンデゲオチェロのベースがどっしりとボトムを支えている。

「Crescent Moon」は生音をたっぷり使ったオーガニックなネオ・ソウル・テイスト。「There Goes My Sanity」はジワリとグルーヴする渋いミディアム・スロウ。「100 Heart Attacks」も「Brown Sugar」タイプのクールなミドル、「Livin' The Lie」はベース・ラインがグルーヴィーなナンバーで、同じUKの先人、オマーを思わせる。

ワウ・ギターがウネウネと漂うミディアム「The Jimmy Lee Story」、ガシガシのビートにクラヴィネットと甘いメロディが乗る「Yellow In Blue」、アダルトなムードのミッドナイト・スロウ・ジャム「I Wish I Knew」、円やかなミディアム・ナンバー「Jennifer Smiles」、ラストのタイトル曲「Medicine 4 My Pain」はアコギとストリングスがテンダーな雰囲気を醸す。