aint no backin up now
Ain't No Backin' Up Now / Isis
 Buddah '75 

古代エジプトの女神をバンド名とする女性ファンク・ロック・バンド、アイシス。
女性メンバーだけのファンク・バンドというのは非常に稀少な存在。80年代にはクライマックスというのが居たが、多分その他にはこのアイシスぐらいではないかと思う。尤も、クライマックスが黒人女性のみのバンドなのに対し、このアイシスはUKのグループを前身とし、アメリカに渡った後にメンバーを再編したようで、メンバーのほとんどが白人。

『豊穣と死の女神』という邦題が物々しい74年の1stアルバムは、メンバーの銀粉全裸ジャケットにドン引き必至だが、気合漲るファンク・ロックの力作ではあるものの、やや肩に力が入り過ぎの感あり。続く2ndアルバムとなる本作では、更なるメンバー・チェンジで総勢10人の大編成に。しかし本作最大のトピックは、アルバムA面の5曲をアラン・トゥーサンがプロデュースし、ニューオリンズのシー・セイント・スタジオでの録音を敢行していること。

トゥーサンは丁度この頃、ロバート・パーマーをプロデュースするなど、ニューオリンズや黒人音楽の枠を飛び越えて活動をしていた時期で、このアイシスもそういった流れにある仕事なのだろう。ここでのトゥーサン・プロデュース曲は、当然ながらニューオリンズらしいムードに染まっていて、バンドの演奏も手堅く、前作と比べるとグルーヴに余裕が生まれている。豊穣という言葉はむしろ本作の方にこそ相応しいかも。ヴォーカルにソウルフルな妙味は求め得ないが、そこは目を瞑ろう。

オープニングのアルバム・タイトル曲「Ain't No Backin' Up Now」は、シンコペイトするリズムが完全にニューオリンズ仕様なセカンドライン・ファンク。「Icy Winds」はトゥーサンらしいゆったりとしたミディアムで気持ちいい。「Old Stories」もミディアムだが、リズムにはファンクネスが滲み、重量感のあるグルーヴが楽しめる。バラードの「Gold」、スワンプなノリが楽しいカントリー調の「Eat The Root」も彼の地の匂いが漂う。

一方のB面の4曲も実はなかなかのモノで、分厚いホーン・セクションを伴って勢いよく突き進むファンク・チューンの「Bobbie & Maria」、グルーヴィーなファンク・ロック・ナンバーの「Lost Romeo」、ストリングスを導入したディスコ・ファンク「Come One, Come All」、ラストの「Sunshine Tree」にはややトロピカルなムードも漂う。