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Popular / Van Hunt
 Blue Note '08 


何と、2008年にブルー・ノートからリリースが予定されながらもお蔵入りとなった、ヴァン・ハントの幻の3rdアルバム『Popular』が、9年越しに(デジタルのみではあるが)突如正式リリース!

あまりに予想外の吉報にかなり驚いたが、どうやらハントがブルー・ノート側に改めて正式な発表を求め交渉した結果とのこと。こんな異端のオルタナティヴR&B作品を、当時ブルー・ノートがどう扱っていいのか分からなかったのも理解できるが、ここにきての英断に至った背景には、現在のブルー・ノートの社長が、あのドン・ウォズだというのも大きいハズ。
当時リリースされていればディアンジェロ『Voodoo』並みの絶賛を浴びていたかもしれない本作、晴れてオフィシャルな作品となったことでようやく、これこそハントの最高傑作と堂々と言うことができるようになった。

ラサーン・パターソンの99年の2nd『Love In Stereo』で、無名の新進プロデューサーとして好事家たちから密かに注目を集めたハントは、その後『Van Hunt』 『On The Jungle Floor』の2枚のアルバムをキャピトルからリリース。スライやプリンスからの影響も大きい、メイン・ストリームのR&B公式から大きく逸脱した音楽性は、ディアンジェロ以降のネオ・ソウルとして一緒くたにして語られもしたが、当時シーンを席巻したディアンジェロ・フォロワー的なサウンドとも一線を画す独自ぶりで、個人的にはその後の展開を大いに期待していた。

そしてこの3rdアルバム『Popular』。今手もとにあるプロモ盤CDは、お蔵入りとなって数年後にオークションで手に入れ、ますます独創的で我が道を行くその内容にかなりの衝撃を受けた。前2作は、時にプリンスやスライの模倣とも思えるような曲もあったりしたが(そういう無邪気もまた好きなのだが)、本作ではそれらの先人からの影響がハントの音楽として完全に消化され血肉となった印象を受ける。実は2ndアルバムには少しあったように思えたメジャー志向もココでは完全に封印、一聴シンプルだが奇妙に捻じれたストレンジなファンク/ソウル/ロックなサウンドは、先ほど引き合いに出した『Voodoo』よりも、個人的にはテレンス・トレント・ダービー『Neither Fish Nor Flesh』あたりを比較対象に挙げたくなる。

オープニング・トラックの「Turn My TV On」は、全盛期のプリンスを思わせるユニークな個性発揮のファンキーなナンバー。「Prelude(The Dimples On Ur Bottom)」はやや重心を低く落としたミッド・ファンクで、ガッシリしたボトムとラッパにカリブ/レゲエ的なニュアンスを感じたりも。「Ur Personal Army」も80年代半ば頃のプリンスがやりそうな曲で、要所に聴かれる中近東風フレーズは「Around The World In A Day」を思わせたり、スクイーズするようなシンセにはジュニーの匂いを嗅ぎ取ることもできる。

スライ・チルドレンであることが一聴瞭然の、リズム・ボックスがクールなミドル・チューン「Popular : Count's Coda」、アコギの音色が清々しい「N The Southern Shade」、ストリングスをバックにピアノ弾き語りの「There's Never A G'time 2 Say G'bye」、モコモコ曇った太いベースが地を這う地味渋グルーヴ「Feelings」、リズムとグルーヴの捩じれが中毒性を孕む「SNM」、「The Lowest 1 Of My Desires」は、妙ちきりんなビートが不思議にトライバルな感覚を生む骨格ファンク。

アーシーでブルージーなダウン・ホーム感覚に和む「Break Down Ur Door」、ストリングスとアコギによる室内楽的な前半と、抑制されたホーン使いがスライっぽい後半の2パートからなる「Ur A Monster」、複雑にリズムが絡み合う異次元グルーヴ「Blood From A Heart Of Stone」、ふわふわと浮遊感漂う「Bits & Pieces」、不思議な無国籍感に眩惑されるラストの「Finale(It All Ends N Tears)」まで、本作は孤高のアーティストの失われた宝石だ。