ドラムス、ベース、ギターと来て、それからかなり時間が空いてしまったが、ようやくキーボード編。
鍵盤奏者というと、音楽理論に精通したアカデミックな天才肌が多いイメージ。ピアノやオルガンに加え、70年代にはシンセサイザーが爆発的に普及、新しい機材を自在に使いこなし創造性を飛躍させ、本来泥臭いファンク・ミュージックを宇宙の彼方へと飛躍させた。
ファンクにおいてはキーボードは傍系の楽器と言えるのだろうか、凄腕ファンカーがゴロゴロいるドラムやベースに比べると、幾分か層が薄い印象(ジャズ・ファンク系の凄腕オルガニストはたくさんいるが、その辺りを含めると収拾つかなくなりそうなので今回はパス)。なので、本来はこの枠だけに留まらないような人たちも含め、何とか10人選んだ。


bernie worrell
Bernie worrell

ファンク・キーボードの名手として、まず真っ先に名前が挙がるのはこの人、バーニー・ウォーレル。
Pファンク全盛期の屋台骨として、数多くの名盤・名曲で超個性的で神憑りなプレイを披露したのみならず、作曲やアレンジにおいても多大な貢献。バーニーなくしてはPファンクがこれほど巨大な存在になることはなかったハズ。その影響力の大きさたるや、今だ絶大。90年代以降のヒップホップやR&Bにおける、電子楽器の奇妙な音色やブッとんだアレンジは、すべてバーニーが70年代に切り拓いた地平の上にあるといっても過言ではないとさえ思える。
70年代のパーラメント/ファンカデリックの作品のどれを聴いても、そのキレまくったプレイを聴くことができる。シンセ・ベースのファンクへの応用という一大発明をした「Flash Light」を含む『Funkentelechy VS. The Placebo Syndrome』もイイが、ここではアルバム全編でバーニーの鍵盤が主役と言っていい『Tales Of Kidd Funkadelic』を。

tales of kidd funkadelic
Tales Of Kidd Funkadelic / Funkadelic


chris jasper
Chris Jasper

3+3以降のアイズレー・ブラザーズを作曲や演奏、アレンジなど音楽面で実質的に支えたのは、アーニー・アイズレーとクリス・ジャスパーの2人だろう。特にクリスのキーボードは、ホーンレスのバンドにあって華やかな広がりや多彩な表情をサウンドにもたらした。艶っぽいスロウ・ジャムでのキーボードのメロウなリフレインやアープ・シンセ使いが印象に残るが、ファンク・チューンでのゴリゴリのクラヴィネット・プレイも圧巻。特にクラヴィに関しては、スティーヴィーからの影響が大きいと思われるが、この頃のアイズレーはスティーヴィーのブレーンであったマルコム・セシルとロバート・マーゴレフをエンジニアに起用しており、クリスはこの2人からも学ぶものが多かったのではないか。
アイズレーの最高傑作『The Heat Is On』は、ファンク&メロウの両方の、その最上の楽曲が楽しめる。クリスの演奏も冴えに冴えている。アルバム・タイトル曲でのゴリゴリにウネるクラヴィネットや、B面3曲での官能的なシンセ使いが素晴らしい。

heat is on
The Heat Is On / The Isley Brothers


stevie wonder
Stevie Wonder

スティーヴィーと言えば、マルコム・セシルとロバート・マーゴレフが開発したTONTOと呼ばれる巨大なシンセサイザー・マシンを駆使して、70年代前半に神懸かった創作活動で名盤を連発したが、ことファンクにおいてはクラヴィネットを主な武器とした。
ファンク・サウンドにクラヴィネットを結びつけた先例としては、スティーヴィー以前にスライとビリー・プレストンがいるが、スティーヴィーはスライらの影響を受けつつ、クラヴィのささくれた音を通して自身のファンクネスを表現。それらの作品が大ヒットしたという点も非常に重要。
曲単位ではやはり「Superstition」が決定打で、以降「Higher Ground」「You Haven't Done Nothing」などのクラヴィネット・ファンク名曲を生み出すが、アルバム単位でクラヴィネット含有率が高いのは、『Talking Book』のひとつ前の『Music Of My Mind』か。「Love Having You Around」「Keep On Running」の2曲がインパクト大で、トークボックス(ヴォコーダー?)を用いた前者、クラヴィネットがギトギト粘りつく後者、ともにスライがやっていたことをスティーヴィーなりに咀嚼しようとしたファンク・ナンバー。「Happier Than The Morning Sun」でのハープシコードみたいなクラヴィも面白い。

music of my mind
Music Of My Mind / Stevie Wonder


junie
Walter "junie" Morrison

オハイオ・プレイヤーズ~Pファンクと、70年代の最重要ファンク・バンドを渡り歩いた異能ファンカー。
マルチ・プレイヤーだが、やはりキーボード奏者としての印象が強い。オハイオ時代の奇妙にネジくれたビザールなファンク・サウンドも、ファンカデリック「One Nation Under A Groove」「(Not Just)Knee Deep」の2大ヒットも、ジュニーの個性がそのカラーを決定づけているということは、ウエストバウンドとコロンビアからリリースされたジュニーのソロ諸作を聴けば明らかで、特に2ndアルバム『Freeze』は、キーボード/シンセサイザーを軸にジュニーのキモカワな個性全開の快作。

freeze
Freeze / Junie


billy beck
Billy Beck

ジュニーの後釜としてオハイオ・プレイヤーズに加入したビリー・ベック。アルバムのアートワークで見ることができるビリーは、ビジュアルから既にファンキー。ジュニーほどの捻くれた個性は感じさせないが、ジャズの素養もあるのではと思わせるそのプレイは、全盛期であるマーキュリー時代のオハイオ・サウンドを、ファンクにメロウにより豪奢に色づけした。スウィートなファルセット・ヴォーカルも含め、ジュニーとはまた違った変態性を見せる。
ビリー加入後最初の作品となる名盤『Skin Tight』から、早くもその手腕を発揮。タイトル曲でのジャジーなプレイ、「Streakin' Cheek To Cheek」でのグシャグシャに蠢くクラヴィネット、「Heaven Must Be Like This」のメロウな鍵盤捌き。本作はひょっとするとジュニーの演奏も一部含まれているのではとも思うが、ビリーが新生オハイオの音楽性の核を担ったひとりであることは間違いない。

skin tight
Skin Tight / Ohio Players


sly stone
Sly Stone

本来はマルチ・プレイヤーであるスライだが、ステージではキーボードを弾くこと多かったようだし、ギターやドラムよりも鍵盤奏者としてのイメージが強いのは確か。
『暴動』以降は、すべての楽器がワウワウ、ウネウネとウネっていて、主にスライが弾く鍵盤もウニャウニョと蠢いている。特にクラヴィネットの使い方は、スティーヴィーにも直接的に影響を与えたのではないかと思う。糸を引くように粘りつく「Luv N' Haight」、ブルージーに彷徨う「Just Like A Baby」、強靭にバウンスする「Poet」など、『暴動』はクラヴィネット・ファンクの最高傑作でもある。

riot
There's A Riot Goin' On / Sly & The Family Stone


herbie hancock
Herbie Hancock

70年代前半にファンク路線を邁進したハービー・ハンコックは、シンセサイザーの可能性を極限まで追求しようとしていたのだろう。スティーヴィーからは大いに刺激を受けていたことは想像に難くないが、ハービーをファンク道に向かわせた直接的な要因は、スライ「Thank You」だと本人が語っている。
ハービーが本格的にファンクへと舵を切った最初の作品『Head Hunters』は、シンセを駆使したジャズ・ファンクの金字塔。「Sly」なんていう曲もある。

head hunters
Head Hunters / Herbie Hancock


prince
Prince

ギタリストとしての印象が何よりも強いプリンスだが、ミネアポリス・サウンドの鍵はキーボード/シンセサイザーにある。レヴォリューションにはDr.フィンクとリサ・コールマンの2人の鍵盤奏者がいたが、あのサウンドを特徴付ける演奏は主にプリンスのものであるか、あるいはプリンスが2人に指示して弾かせたものだろう(「Dirty Mind」のリフと「Head」のソロはフィンクのものらしいが)。
ギター編でも代表作に挙げた『Controversy』は、ミネアポリス・ファンクの重要作でもある。「Let's Work」でのキーボード・プレイは、80年代に世界を席巻するミネアポリス・サウンドの雛形となったし、現在のブギー・ファンクの源流のひとつでもあるだろう。「Annie Christian」もシンセが不穏に響く異形のファンク。

controversy
Controversy / Prince


roger
Roger Troutman

ロジャーは優れたギタリストでもあるが、真っ先に思い浮かべるのはキーボードに繋がれたチューブを咥えている画だろう。
セサミ・ストリートでトークボックスを演奏するスティーヴィーを見たことがキッカケで、ロジャーもやるようになったらしいが、ロジャー以前にはジュニーも使い倒していたし、更に言えばスティーヴィーより先にスライ(はギターだったが、というかフレディーか)がいるが、トークボックスの第一人者はロジャーというのが全人類の共通認識。
ザップ/ロジャーのどのアルバムを代表作として挙げてもいいが、ここは個人的に最高のトークボックス・プレイが聴ける「Heartbreaker」を含む3rdを。

zapp 3
Ⅲ / Zapp


david spradly
David Spradley(Lee Chong)

80年代のジョージ・クリントンを支えた中国系キーボード奏者、デイヴィッド・スプラドリー。またの名をデイヴィッド・リー・チョン。
一般的には低迷期とされる頃のPファンクだが、この時代の最大の成果である「Atomic Dog」を作ったのはデイヴィッドだ。ズブズブと沈み込むシンセ・サウンドと、相反してバウンスするようなビートを持つこの曲は、当時も大ヒットを記録したが、ヒップホップでもサンプリングされまくり。後世への影響力の大きさという点ではPファンク随一かもしれない。

computer games
Computer Games / George Clinton