james river album prelude
James River Album Prelude / D'angelo
 Think Differently Music '10 

『Voodoo』のリリース後の長い長い沈黙の時期、痺れを切らしたファン心理につけ込むように、シンク・ディファレントリー・ミュージックなるレーベルからブート紛いの怪しげなCDがいくつかリリースされた。『Yoda』『Yoda Ⅱ』『Interpretations Remakes』など、それらはいずれも、クエストラヴがうっかり(?)リークしたデモ音源や未発表曲が数曲に、サントラ提供曲や客演曲などの多数の既発曲を抱き合わせた粗悪なシロモノだったが、そんなブツでもファンの渇きを取りあえず潤すには十分だった。

それらの出所は怪しいながらもフツーに流通に乗っていた作品のなかでも、この『James River Album Prelude』には色メキたった。何しろこのタイトル。予ねて噂されていた、しかし一向にリリースされる気配すらないニュー・アルバムのタイトルを冠した本作は、ファンの誰もが待望の新譜の前哨戦と受け取っただろうし、例えスニペットでも新作からフライングで流出した音源が含まれるのなら聴いてみたいと思わせた。

実際のところ、ここに収録されている曲の多くは既発曲で完全に肩透かしを喰らったのだが(フォロー出来ていない客演曲をまとめて聴けるのは、それはそれでありがたいのだが)、1曲、とんでもないブツが放り込まれていた。

「1000 Deaths」。

正真正銘の3rdアルバム『Black Messiah』に無事に収録されることになるこの曲。しかし、ここでのデモ版は後のオフィシャル版と比べると、ギターもドラムも控え目で、あのグシャグシャと拉げて歪んだグルーヴ、凶暴で悪魔的な禍々しいファンクネスにはまだ至っていない。それでも2010年当時このデモ版を聴いた時は激しく興奮したものだった。この時点でも、初期ファンカデリックやスライ『暴動』を彷彿とさせるサウンドだと思ったが、あのオフィシャル版を聴いた後に改めてこのデモ版を聴き返してみると、プリンス「Sign Of The Times」のようなクールで無機質なムードを感じたりもする。

『Black Messiah』に収録された曲はもう1曲、「Really Love」があるが、この曲は『Voodoo』リリース直後には既に存在していて、『Yoda』にも収録されていた。『Black Messiah』のエンジニアを務めたベン・ケインによると、この曲は最初クエストラヴがドラムを叩いていたが、オフィシャル版ではジェイムス・ギャドソンに差し替えられたとのことなので、ここでのデモ版はクエストラヴなのだろう。その辺のグルーヴの違い(オフィシャルの方が洗練されてスムーズな印象)、またオフィシャル版冒頭の華麗なストリングス・パートがデモ版には無いなどの違いが楽しめる。出来としてはオフィシャル版の方が数段素晴らしいのは言うまでもない。

「Glass Mountain Trust」はマーク・ロンソンへの客演曲で、これは完全にロンソンの土俵(か?)。サイバーな感触のサウンドは個人的にはまったく歓迎しない方向性で、ディアンジェロもお仕事と割り切ったというところか。
Qティップをフィーチャーした「Ghetto Music」は、ジャイヴ感溢れるファンキーなナンバーで、この感覚が後の「Sugah Daddy」あたりに繋がっていくのだなと、今となってはよく分かる。
Bullshit」はロイ・ハーグローヴのプロジェクト、RHファクターの2006年のアルバム『Distractions』に収録されていた曲で、スモーキーなホーン、トランペットのミュート音がユラユラ揺らめく極上のグルーヴ。
Believe」はQティップの2006年のソロ作『The Renaissance』に収録されたディアンジェロ客演曲。この当時のティップらしい硬めの縦割りビートにディアンジェロのファルセット・コーラスを幻想的に重ねる。
Found My Smile Again (Redux)」は、1996年のサントラ『Space Jam』提供曲で、ベスト盤『The Best So Far...』にも収録されていた曲の、別ヴァージョン。こちらのヴァージョンの方がタイトでグルーヴが立った印象で、甲乙付け難い。

スヌープ・ドッグの2006年のアルバム『The Blue Carpet Treatment』収録のスヌープ&Drドレーとの共演曲「Magine」(正式にはは「Imagine」だが)、Jディラ曲に客演した「So Far So Good」、スラム・ヴィレッジの2000年作『The Fantastic Vol.2』収録の「Tell Me」、コモン『Like Water For Chocolate』収録のファミリー・スタンドのカバー「Ghetto Heaven」、1997年のサントラ『Men In Black』収録のザ・ルーツ「The Notic」で、アース・ウィンド&ファイアの名曲をディアンジェロが歌ったフック部分「Shining Star」など、これらの曲はいずれも1分程度で短くカットされているのが残念。

D'Angelo Instrumental Medley」「D'Angelo Acapella Medley」はそれぞれ、インスト、アカペラをメドレーで繋いだだけのものだが、これがなかなか気持ちいい。『Voodoo』のアウトテイク音源も混ざっていたりする。「The D」はディアンジェロ音源のコラージュ的な短いトラックで、これは不要。