changin times
Changin' Times / Ike White 
 LAX '76 

当時の日本盤LPのライナーによると、アイク・ホワイトは18歳の時(おそらく63~64年頃)に強盗殺人の容疑で逮捕。71年のカーティス・メイフィールドとジミー・ウィザースプーンのコンサートで囚人をバック・バンドに参加させる企画が持ち上がり(って、そんな事が可能なのか?)、この企画は頓挫したようだが、その時のメンバーの1人がこのアイク・ホワイトとのこと。
その才能に注目したウォーのプロデューサー、あの悪名高いジェリー・ゴールドスタインが、アイクのアルバムをレコーディングするため暗躍(?)、おそらく73~74年頃に獄中でレコーディング(どうやって?)されたのが本作。しかし、いろいろと難しい問題があったのか、実際にリリースされたのは76年。

本作はグレッグ・エリコとジェリー・ゴールドスタインの共同プロデュース。ということは、やはりグレッグがプロデュースした(ジェリーもエグゼクティヴ・プロデューサーとして名を連ねている)『Giants』とも関連ありそう。録音時期もおそらく同じ頃、レーベルもLAX、レコーディングから数年経ってリリースというのも同じ(『Giants』は78年リリース)。
両親はともにミュージシャンというアイクは、自身もマルチ・プレイヤーとのことで、獄中でもいろいろな楽器をマスターしたらしい(どうやって?)。Discogsによると、本作ではアイクがすべての曲の作曲、ヴォーカルの他、ギターとキーボード、グレッグがドラムス、ダグ・ローチがベースを演奏しており、やはり『Giants』との共通項が多い。

監獄の暗く重苦しい空気や、ジメジメした冷たいコンクリートの床の感触が伝わってくるようなムードが張りつめる本作には、一方で、微かな希望の光が差すような穏やかな曲、ファンキーに弾ける曲もあったりする。演奏は非常に骨太で、グレッグのドラムスとダグのベースが繰り出すゴリゴリのファンク・ビートはやはり圧巻。それに煽られてか、アイクもバリバリとギターを引き倒す。

アルバム・タイトル曲「Changin' Times」は遅れてきたニュー・ソウルといった感じの、重たいムード漂うミディアム・ナンバーだが、曲が進むにつれて演奏は熱を帯びグルーヴィーでファンキーに展開。「Comin' Home」は明るい曲調のアップ・ナンバーだが、もうすく家に帰れると歌うこの曲は、アイクの境遇を思うと複雑な気分にもなる。インストの「Antoinette」はメロウな雰囲気だが、途中から徐々にファンキーなグルーヴで熱くなる。

「I Remember George」は、獄中で知り合ったブラック・パンサー党員ジョージ・ジャクソンに捧げたインスト曲。「Happy Face」は円やかなミディアム・ソウルで心地よいグルーヴに満たされる。ラストの「Love And Affection」は本作中でも一際華やかなファンク・チューン。極太のグルーヴがウネりホーンや女声コーラスが賑やかに盛り立てる。

ライナーには、アイクはあと数年でシャバに出られる予定と記されているが、その後の彼がどのような人生を歩んだのかは分からない。分かっているのは、この傑作の後、この才能溢れるミュージシャンはレコードを1枚も残していないということだけだ。