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ジェフ・カリス著、日本語で読めるスライの伝記本としては唯一の作品『スライ&ザ・ファミリー・ストーンの伝説 人生はサーカス』。
和訳版が出たのは2009年。すぐに購入し、それ以来何度も読み返しているが、これはスライのファンにとってはまさにバイブルような本。
スライの幼少期からラジオDJ時代、ファミリー・ストーン結成から一瞬の絶頂期、そしてその後の長きに渡る低迷期を経て現在に至るまで、まさに "The Life And Times Of Sly Stone"な一冊。スライ本人に取材しお墨付きを得た本書は公認バイオグラフィといえるものでもあるが、けっしてスライを一方的に持ち上げる内容ではなく、陰の部分にもしっかりと踏み込んでいる。

そう、陰の部分― 切っても切り離せないドラッグとの関わり、富と名声に群がる取り巻き達、バンド内の闘争とメンバーの離散、エスカレートする奇行など。これらはスライを語る上で避けては通れないが、やっぱり読んでいて辛いものがあるし、70年代後半以降の記述が極端に少ないのも、スライの活動の停滞や作品の質の低下をそのまま表しているかのよう。

しかし、それ以上に興味深いエピソードが山盛り。
60年代の、ファミリー・ストーンがまだ駆け出しの頃のメンバーの一体感や、ウッドストックを頂点として一気に駆け上がっていく爆発寸前のバンドの勢いと熱量は、ページをめくる手にも思わず力が入り気分が高揚してくる。
なかでも、最も惹きつけられるのが、『Stand!』『暴動』『Fresh』といった歴史的名盤の制作秘話。ファミリー・ストーンのメンバーはもちろん、マイルス・デイヴィスやボビー・ウォマックといった、レコーディングに関わったミュージシャン、当時のエンジニアなどから語られる話が猛烈に面白い。


個人的に特に興味深い話をいくつか以下に列記。

ジョージ・クリントンが寄せた序文に記された、「俺達はストーン・フラワー・レコードと契約した」という知られざる事実に驚き。69年ないし70年に、スライのプロデュースでファンカデリックもしくはパーラメントの作品が実際にリリースされていたとしたら、その後のファンクの歴史はまったく違ったものになっていたハズ。

『Fresh』の「Babies Makin' Babies」は、当時のエンジニアの証言によると、4小節のドラム・トラックのテープを切り貼りしてループさせた、とのこと。まさにヒップホップ的な発想で、スライの先進性と天才ぶりを物語るエピソードだが、ここでの「Babies Makin' Babies」は、例の別ミックスの方ではないだろうか。別ミックスの方が正規版よりも明らかにループ感が強く感じられる。そうやって意識して聴くと、別ミックス版のトラックはほとんどヒップホップのように聴こえてくる。

スライがビル・ローダンに「だらしなくタイトに、ぐしゃぐしゃでクリーンに叩け」と指示したというドラム・プレイは、その25年後にディアンジェロが『Voodoo』でクエストラヴに要求したものと同じではないか。ローダンが『Small Talk』でスライが思い描いたとおりのプレイを出来たかどうかはともかく、ここにもスライの独創性が見て取れるように思う。