sly
スライの最後のアルバム『Ain't But The One Way』のリリースが82年。その後はクリントンとつるんだり、ジェジー・ジョンソンに引っ張り出されたり、グラミーに出てすぐ引っ込んだり、まさかの来日なんてこともあったけど、実質的にはもう35年以上も隠遁状態(2011年のあのアルバムは、この際無かった事に...)。
アーティストとしての活動期間は15年ほど、その間に残したアルバムはベスト盤を除き11枚。これを多いと見るべきか、それとも少ないと思うかは人それぞれだろうが、特に60年代末~70年代前半の作品の、その量に対する質の高さ、密度の濃さは圧倒的。
好きな曲はとても10曲(+α)に絞りきれないが、あまり考えずに思いつくまま選んでみた。案の定、『暴動』の曲が多くを占めることになった(星条旗ばっかりになってしまうので、いくつかの曲は代わりにシングル・ジャケットを載せた)。

freshNo.1
In Time
 from 『Fresh』

『Fresh』の1曲目を飾る「In Time」を初めて聴いた時に受けた衝撃の大きさは相当なモノがあった。コレ一発でスライの音楽にどっぷりハマることになった、スライのベストどころか数多あるファンク・クラシックの中でもベスト・オブ・ベストな1曲。
本作から一新したリズム隊の2人、アンディー・ニューマークのドラムスとラスティー・アレンのベースに、更にギター、キーボードがリズムの隙間を縫うように絶妙な間合いで複雑に絡み合う、スリリングにウネるグルーヴのマジックは、45年経った今聴いてもまったく色褪せない。マイルス・デイヴィスがこの曲のシンコペーションを学ばせようと、自分のバンドに「In Time」を何度も繰り返し聴かせたという逸話もあるとおり、ジャンル問わず多くのミュージシャンに影響を与えたに違いない。

family affairNo.2
Family Affair
 from 『There's A Riot Goin' On』

サビのメロディーの耳馴染みのよさとは裏腹の、メロウというにはダークで陰鬱過ぎる、レイジーでアシッドなグルーヴ。耳もとでボソボソと呟くような低く潰れたスライと、どこか冷めたローズのヴォーカル。稀代の名盤『暴動』を象徴する1曲にして、スライ最後のNo.1ヒット。どうしようもなくドロリと暗いのに、永遠にリピートして聴き続けていたくなるような、悪魔的な魅力を持つ名曲。
ビリー・プレストンがキーボードを弾き、ボビー・ウォマックがギター(フレディー説もあり)、それ以外の楽器はスライ自身がプレイしているというのが定説で、『暴動』の他の大半の曲同様、ファミリー・ストーンというバンドは最早存在しないに等しいが、それだけにこの曲の歌詞はスライの心情を吐露したかのようで、ジクジクと痛む。

greatest hitsNo.3
Thank You (Falettinme Be Mice Elf Agin)
 from 『Greatest Hits』

急峻な登り坂を一気に駆け上がったファミリー・ストーンが、最絶頂期に放った堂々のNo.1ヒット・シングル。『Stand!』の爆発的なエネルギーから、クールでダークな凄味を効かせた辛口のファンク・サウンドへと深化。
抑制を効かせつつタイトなファンク・ビートを叩き出すグレッグのドラムス、パーカッシヴに弾むスラップ奏法が完全にネクスト・レベルへと移行したラリーのベース、ワウを効かせてワシャワシャと掻き毟るようなリフがファンク極まるフレディーのギター、やたらカッコいいフレーズを効果的にヒットするホーン隊、そしてスライを中心にユニゾンでワサワサと声を重ねるヴォーカル・ワーク。69年12月リリースのこの曲は、来るべき時代のファンク・サウンドの雛形を示し、後続のファンク・バンドに決定的かつ甚大な影響を及ぼした70年代ファンク最重要曲。ハービー・ハンコックもこの曲にヤラれ、その後暫くファンク路線を歩むことに。
結果的に、オリジナル・メンバーでのファミリー・ストーンはこの曲を最後に空中分解。歴史にIfはないが、オリジナル・メンバーでのバンドのこの先に何があったのか、『暴動』『Fresh』とは別の道を辿るスライを聴いてみたかったような気もする。

theres a riot goin onNo.4
Luv N' Haight
 from 『There's A Riot Goin' On』

『暴動』の冒頭を飾るインパクト絶大なファンク・ナンバー。
前述した、「Thank You」のその先を(グレッグとおそらくラリー抜きで)予感させるダークでハードでゴリゴリのヘヴィー・ファンク。スライは当初、「Family Affair」ではなくこの曲をシングルにしたかったらしいという話も、何となく頷ける。
フレディーの噛み付くようなワウ・ギターが強烈で、ぶっといベース(スライか?)が繰り出すドス黒いグルーヴがトグロ巻くようにウネり、スライのヴォーカルはリトル・シスターのコーラスを伴ってワサワサと盛り上がる。楽曲全体には混沌とした雰囲気が漂っているが、グシャグシャと軋みを上げ突進する重戦車のごときサウンドは、相当なインパクトがある。

standNo.5
Sing A Simple Song
 from 『Stand!』

『Stand!』の中でも一際ファンキーなこの曲は、前期スライのファンク臨界点。
バンド一丸となった突進力・破壊力満点のファンク・グルーヴ、効果的に仕込まれたキャッチーなフックとリフ、前期スライの特徴であるマイク・リレーもバッチリ決まったファンク・クラシック。
曲頭のフレディーのブルージーなギターからシンシアがズドンと放つ曲タイトルのシャウト、そしてローズの”Yeah! Yeah! ~”というヴォーカル、ともうここまでKO必至だが、更に、ドカスカと踏み鳴らすグレッグのドラムと、弾力に富むラリーのベースがグルーヴを最大限に増幅するモンスター・ファンク。

theres a riot goin onNo.6
Just Like A Baby
 from 『There's A Riot Goin' On』

『暴動』の1曲目「Luv N' Haight」でハイになった後の、ダウナーな2曲目。
ささくれたクラヴィネットがチクチク刺さるような、不穏で痛々しく、虚無的に酩酊するスロー・ファンクで、スライの呻くようなヴォーカルも非常に生々しく重々しい。この曲のギターはボビー・ウォマックでコーラスでも声を重ねているが(他はおそらくすべてスライの演奏)、2人がクスリでグダグダになりながらダビングと消去を重ねた地獄絵図のような録音風景が目に浮かぶよう。しかし、どうしようもなくこの曲に惹きつけられるのは何故なのだろう。
ディアンジェロ『Voodoo』は丸ごと『暴動』っぽいが、なかでも数曲あるスロー・グルーヴ曲に「Just Like A Baby」の影を見て取れる他、ジョン・レジェンド「She Don't Have To Know」でサンプリングされていたのも印象的で、地味な曲ながら意外と後進のアーティストに影響を与えているのかも。

freshNo.7
Thankful N' Thoughtful
 from 『Fresh』

淡々と刻むリズム・ボックスを軸に、各楽器がポリリズミックに絡み合うミッド・ファンク・ナンバー。
『暴動』収録の「Africa Talks To You(The Asphalt Jungle)」の、混沌とした雰囲気を薄め、よりタイトにまとめ完成度を上げたような曲で、地を這うようにウネるグルーヴ、カッコいいフレーズを飛ばすホーンのアタック、リトル・シスターのバック・ヴォーカルとともにゴスペル的に盛り上がるスライの粘り腰鼻歌ファンキー歌唱もイカス。
『Fresh』にはこのタイプのミッド・ファンクが他にもたっぷり収録さていて、スロー~ミドル系のファンクが大好物な自分にとっては最高のアルバムだ。

runnin awayNo.8
Runnin' Away
 from 『There's A Riot Goin' On』

重いムードがたち籠める『暴動』の中にあって、前期スライにも通じるような一際ポップな印象を残すこの曲。
しかしながら、明るさやポジティヴさをまったく感じないのは、ダーク・サイドに落ちたスライの為せる業。この曲でリードを取るローズのヴォーカルは、キュートだがどこまでも冷めた眼差し。歌詞にあるとおり、笑ってはいるが、文字どおり冷笑、頗るシニカル。ざっくりしたギターの鳴りや、リフがいちいちカッコいいホーン・アレンジもやっぱり素晴らしい。

theres a riot goin onNo.9
Poet
 from 『There's A Riot Goin' On』

『暴動』は、特にA面の4曲目までが堪らなく好きで、4曲すべてこの10傑に入っているが、この曲は3曲目。
無機質なリズム・ボックスの上に、骨太なクラヴィネットが乗るバウンシーなミッド・ファンク。ギシギシと軋みを上げ、パーカッシヴに叩きつけられるクラヴィネットは、ギトギトと粘りつき糸を引くようにグルーヴに絡みつく。
おそらくスライ1人による多重録音とのことだが、バンドによる演奏だったらこんな捻じ切れたような感じにはなっていないだろう、密室DIYファンクの傑作。

high on youNo.10
Crossword Puzzle
 from 『High On You』

後期スライは『暴動』『Fresh』の2枚が傑出しているが、『Small Talk』や『High On You』あたりまでは並みのファンク・バンドの作品であれば傑作と評されるレベル。なかでもこの曲は70年代中期以降のスライでは最高のファンク・チューン。
この曲が大好きな理由は、やはり先に聴いたデ・ラ・ソウル「Say No Go」で刷り込まれていたからだろう。そこでサンプリングされたカッコいいホーン・セクションや、印象的なシド・ペイジのヴァイオリン、ファンキーで弾力に富んだグルーヴは、かつてのスライにあった活力を奇跡的に取り戻している。

fresh次点
Que Sera, Sera (Whatever Will Be, Will Be)
 from 『Fresh』

スライとしては珍しいカバー曲なので敢えて次点としたが、これも大好きな曲。
ポップなドリス・デイのオリジナルとはまったく様子が異なる、レイジーでブルージーなカバー。「なるようになるさ」という楽天的なフレーズが、「なるようにしかならない」という、どうにもならない冷めた諦念に満ちた解釈へ置き換えたスライは、冴えていたとしか言いようがない。
リードを取るローズが冷めたヴォーカルで淡々と歌った後、サビはスライがドロドロした感情を吐き出すように、苦みばしった重々しい声で唸る。リトル・シスターのコーラスをバックに鍵盤を弾き歌うスライは、ゴスペル的でもある。