ventriloquism
Ventriloquism / Meshell Ndegeocello
 Naive '18 

ミシェル・ンデゲオチェロの最新作は、80~90年代のR&Bヒットを中心としたカバー・アルバムという異色作。
ここで取り上げられている曲は、ブラコンからニュージャック・スウィング、ヒップホップへと米大衆黒人音楽が大きくシフトして行った時代のもの。ミシェル自身も、10代の頃からミュージシャンとしてのキャリアをスタートした駆け出しの時期まで、身近に触れていた曲ばかりなのだろう。
とにかく懐かしい曲ばかりなのだが、そう簡単に口ずさめるようなカバーになっていないあたりは流石ミシェル。ここには原曲に忠実なカバーなど皆無で、随所に大胆な解釈が加えられているが、アルバム全体を覆うクールでドライな空気には、静かな緊張感が張りつめている。ギターやドラムの音が実に生々しく、時にロック的だったりフォーキーだったりするネイキッドなサウンドは、従来のR&Bのフレームからは大きく逸脱している(この人は、もうずっと前からそんなところには収まっていなかったけど)。何となく、テリー・キャリアーが97年にトーキン・ラウドからリリースしたカムバック作『Timepeace』を思い出したり。

アルバムの冒頭を飾るのは、リサ・リサ&カルト・ジャム「I Wonder If I Take You Home」。まさか、ミシェルのアルバムでこの80'sエレクトロ・ポップ・ヒットを聴くことになろうとは。しかし、原曲のムードなど微塵もなく、ロックっぽいドラムの鳴りが気持ちいい、非常に大胆な改変になっている。この原曲とのギャップはインパクト大で、これはアルバムの1曲目に相応しいナンバー。
アルBシュア「Nite And Day」は大陸的で神秘的なムード漂う幽玄スロウ。本作のハイライトと言っていいだろう、プリンス&ザ・レヴォリューション「Sometimes It Snows In April」は、荒涼とした原野を流離うような、幻想的な雰囲気に覆われたカバーで、胸にグッと迫るものがある。ミシェル本人が最も影響を受けたと語っているように、本作中では最も原曲に寄り添ったカバーとなっていて、この曲のムードがアルバム全体に通底しているとも言えそう。

TLC「Waterfalls」は、アコギの爪弾きが生々しく響くフォーキー・ナンバー。ジョージ・クリントンの80年代のアンセムをカバーした「Atomic Dog 2017」も、ドライなアコギの音色が耳に残るフォーク・ファンク。ラルフ・トレスヴァントのニュー・ジャック期の傑出したスロウ・ジャム「Sensitivity」は、ポップに弾むアップ・ナンバーに変貌。
ジャネット・ジャクソン「Funny How Time Flies」は重々しい雰囲気が圧し掛かる重厚な仕上がり。フォースMD's「Tender Love」は土臭いブルース・ハープとアコギが温かいスワンプ。
ザ・システム「Don't Disturb This Groove」は美しいヴォーカル・ワークとサウンド構築で原曲のイメージから自由に解き放たれる。ティナ・ターナー「Private Dancer」は沈鬱なムードで横たわるスロウ。ラストはシャーデー「Smooth Operator」はドラムがウネりのあるグルーヴを生む。