mazarati
Mazarati
 Paisley Park '86 

マザラティなる7人組バンドがプリンスのペイズリー・パークからリリースした1stアルバム。
本作のプロデュースを担ったのはレヴォリューションのベーシスト、ブラウンマークで、半数の曲で作曲も手がけるなど、このプロジェクトで主導的な役割を果たしている。共同プロデューサーにはデイヴィッドZも名を連ねるが、プリンスはと言うと、1曲のみブラウンマークと共同でプロデュース、作曲は3曲(うち2曲はブラウンマークとの共作)となっているが、例によっていろいろと口出し手出ししているに違いない。

まずバンド・メンバーのヴィジュアルが強烈。おどろおどろしいジャケットはちょっと恐いが、裏ジャケに写るメンバーの姿には半笑いにならざるをえない。ニューロマンティック的なケバケバしいメイクと中世ヨーロッパ風ファッションは、モロ80年代前半のプリンス。リーダーでヴォーカルのケイシー・テリー、中性的な妖しい雰囲気のトニー・クリスチャンもなかなかだが、なかでも白人メンバーのアーロン・ポール・キースの破壊力が凄まじい。おそらくこのヴィジュアル戦略もプリンスの指示なのだろうが、彼らにとっては本意でなかったのであれば何とも気の毒。

ヴィジュアルに目が奪われがちだが、作品の内容的にも当然ながらプリンスの影響濃厚なバリバリのミネアポリス・サウンドで、曲によってはタイムのようにほとんどプリンスが演奏している、という可能性もあるのかも。この86年の時点で、プリンス自身のアルバムでは従来のミネアポリス・サウンドは聴けなくなってしまっていたので、ここでの『1999』『Purple Rain』直系のサウンドは貴重ではある。

本作の制作過程の有名なエピソードとして、「Kiss」を巡る顛末がある。あのプリンスの代表曲「Kiss」はもともとマザラティ用にプリンスが提供した曲で、マザラティが録音したテープを聴いて気に入ったプリンスが、一晩スタジオに籠もって作り直して自分の曲にしてしまったというもの。
ブートではプリンスがギター1本でヴォーカルを吹き込んだ「Kiss」のデモ録音と、このデモテープをもとにデイヴィッドZが音を足してメンバーが歌入れしたマザラティ版を聴くことができる。
プリンスのデモ版はブルース・スタイルのラフで短いものだが、これはこれで非常に魅力的に聴こえる。一方でマザラティ版はリズムの際立ったファンクへと変貌しており、我々のよく知るあの「Kiss」に一気に近づいているが、やや音がゴチャゴチャして未整理な印象。

コレを聴きこの曲に可能性を見出したプリンスは、余計な音を削ぎ落としてグッとソリッドに仕上げた。結果、マザラティ版はお蔵入りとなり、プリンス版「Kiss」はアルバム『Parade』に収録され、シングルも大ヒット。マザラティはヒット曲を取り上げられたカタチとなったが、マザラティ版はサウンドもヴォーカルもプリンス版ほどのミラクルはなく、仮にマザラティ版が世に出ていたとしても、あれほどのヒットにはならなかっただろう。
もう1曲、プリンスはマザラティ用に「Jerk Out」を用意していたようで、これもブートで聴くことができるが、なかなかファンキーな好曲に仕上がっていたものの、なぜかアルバム収録は見送られ、これも後にタイムがヒットさせるという結果に。なんとも不遇なバンドだ。

本作には、「Kiss」の替わりにプリンスが書き下ろし、ブラウンマークと共同プロデュースした「100MPH」が収録されているが、やはりコレが本作の目玉。紫の煙立ち込める妖しげなミネアポリス・ファンクで、ケイシーのヴォーカルもやはりプリンス風。シングル・リリースもされ、そこそこのヒットにはなった模様。
ポップな「Strawberry Lover」とバラードの「I Guess It's All Over」はプリンスとブラウンマークの共作となっている曲で、あの頃のあの雰囲気が充満している。

クレジット上はプリンスの関与が認められないその他の楽曲も、当然ながら殿下汁滴るMPLサウンド。エッジの効いたソリッドなファンクの「Player's Ball」、哀愁滲むスロウの「Lonely Girl On Bourbon Street」、リンドラムのビートが突き進むファンク・ロック「She's Just That Kind Of Lady」、ヘヴィーな反復ビートの平手打ちが炸裂するファンクの「Stroke」、タイトなベースに貫かれた「Suzy」と、80年代前半のプリンスの廉価版のようなアルバムだが、ファンには堪らない作品。