medicaid fraud dogg
Medicaid Fraud Dogg / Parliament
 C Kunspyruhzy '18 

パーラメント名義としては1980年の『Trombipulation』以来、38年ぶりとなる通算11作目『Medicaid Fraud Dogg』が、2018年5月のデジタル・リリースから遅れること4ヶ月、ようやくCDにて発売となった。
とは言っても、今のところフィジカルでのリリースは日本のみ。流石は世界に誇るPヴァイン、朝ドラ主演女優の口から「ジョージ・クリントンめっちゃ聴いてます!」発言(永野芽郁の好感度爆アゲのファンカティアが続出の模様)が飛び出すほどのPファンク先進国となった今のわが国があるのは、「PヴァインのPはPファンクのP」と言って憚らなかったこの偉大なインディー・レーベルのおかげ(90年代初頭にパーラメントとパーレットをCD化したポリスターも忘れちゃいけない)。ありがとうございます。

そもそも、今このパーラメントという金看板で新作をリリースする意味は何なのか。それは2014年のファンカデリック33年ぶりのアルバム『First Ya Gotta Shake The Gate』の時もそう思ったのだが、答えは見つからなかった(正直なところ、CD3枚組33曲というゲップが出そうなヴォリュームのせいで今だに十分聴きこめていない)。
個人的には、82年の『Computer Games』以降にリリースされた作品は、それがジョージ・クリントン名義であれオールスターズ名義であれ、基本的にはすべてクリントンのソロ・プロジェクトだと思っていて、それはファンカのアレにしても実態はそうだったと思う。

今回のこの『Medicaid Fraud Dogg』にしても、パーラメント名義だからといって今更あの往年のPファンク・サウンドを期待などするハズもなかった。
のだが、聴いて驚かされた。90年代以降のクリントン作品の何でもブチ込んだ感もあるにはあるが、本作の多くの曲で聴けるのは、あの黄金のパーラメントのサウンドの2018年アップデート版と言っていいのではないか。Dr.ファンケンシュタインもスターチャイルドも、サー・ノーズも本作には出てこないにも関わらず、『Mothership Connection』から『Trombipulation』へと連なる一連の作品の延長線上にあるアルバムとしての佇まいが本作にはあるように感じる。
オヴァートン・ロイドによるジャケット・アートワークも往年のものとは大分違うが、堂々とあのパーラメントのロゴを打ち出しても許される作品に仕上がっていると思う。CD2枚組24曲の大作だが、各曲は比較的カッチリとまとまっていて聴きやすいのもイイ。

本作の核になっているのは、近年のクリントンを支えるダニー・ベドロシアンやリッキー・タンに、ブラックバード、マッドボーン、フレッド・ウェズリーら古参メンバー、その他多勢のよく分からない人たち。ライジ・カリーやデイヴィッド・スプラドリー、アンプ・フィドラー、ベニー・コーワン、グレッグ・トーマス、マイケル・クリップ・ペインなども部分的に参加しているが、ブーツィーはどうやら居ない模様。Pナットやジュニーなど故人のクレジットもあるため、生前に録った音源も使われてるのだろう。クリス・デイヴの参加も目を引く。ちなみに今回はスライは不在。

しかし何といっても本作でMVP級の貢献を見せるのは、実息トレイシー・ルイスだろう。大半の曲を実父ジョージと共作し、多くの曲でヴォーカルを取り、数曲で複数の楽器を演奏している。92年のトレイ・リュード名義のソロ・アルバム『Drop The Line』でも聴かれたように、以前は父親譲りの変態情けな唱法を売りにしていたトレイシーだが、本作で聴ける彼のヴォーカル/ラップは、変態性を更に増しつつより深化していて、時折ジュニーやアンダーソン・パークを思わせるような声を響かせる。
どういうわけかトレイシーは、Tracey Lewis、Tracey Lewis-Clinton、Tracey "Tra'Zae" Lewis-Clinton、Tracey "Trey Lewd" Clinton の4パターンでクレジットされていて、まるでかつてのジュニーみたいな扱いだが、こういういい加減さもまたPらしさか。また、ジョージの孫娘のパタヴィアン・ルイスとトニーシャ・ネルソンも歌にコーラスにフル稼働で、かつてのブライズやパーレットの役割を完全に補完。クリントン家の世襲の準備も整いP帝国は当分安泰ではと思わせる。

もちろん、御大ジョージも健在で、長年のドラッグ常用から抜け出し心身ともに健康を取り戻したこともあってか、御年77歳にしてますます意気盛んなところを見せてくれる。いやいやこの爺、ツアー引退は表明したものの、創作活動から足を洗うつもりはサラサラなさそう。やはりケンドリック・ラマーとの仕事は大いに刺激になったのだろう、現行の先進的なブラック・ミュージック(と言ってもその辺り疎いのでよく分かっていないのだが)を自身の音楽に貪欲に取り込み、排泄されるのは紛れもない黄金のPファンク・サウンドでありながら、しかもしっかり2018年の音楽として更新されている。

おそらくその最たる例が、トレイシーとジュニーがトラック制作したアルバム・オープニング・ナンバー「Medicaid Creep」だろう。ここで聴ける風変わりなビートはトラップに影響を受けているとのこと。んん、トラップなんてほとんど聴いたことない。現行の音楽にまったくアジャストできていない自分が情けない限りだが、自分よりも30歳以上も年長のジョージが、今も最新のビートに注意を払い、実験と冒険を繰り返し自分の音楽の糧としてきたということに、敬意を覚えずにはいられない。

続く「Psychotropic」はブラックバードのギターがすすり泣く妖しげなムードのスロー・ナンバー。「69」はジャジーなムードのグルーヴ・チューンで、Pなコーラス・ワークにもジャズっぽさが潜む。「Backwoods」の不思議なムードのトラックはD'Artiztという素性不明の人物の制作。ブラックバードが制作に加わった「Oil Jones」はネットリと絡みつくようなグルーヴのミッド・ファンク。「Proof Is In The Pudding」はクールで幻想的なシンセサイザーのトラックにトランペットが乗るコズミック・グルーヴ。
アルバムに先駆けてカットされたシングル曲「I'm Gon Make U Sick O'me」は、何故かやたら粗くザラついた質感のラフなミックスになっているが、これは「Atomic Dog」や「Let's Play House」なんかを思い起こさせるような強力にバウンスするヘヴィー・ファンク。トラックはほとんどジュニーが作っているようで、Pファンク・ホーンズも分厚く盛り上げる。ジョージのヴォーカルも気合い十分、エレクトロキューティーズな女性コーラスもPファンクらしさ全開。スカーフェイスも地味に助演。

逆回転ループっぽいトラックの上をトランペットが漂いジョージが一人語る「Antisocial Media」、軽快にリズムが走りエレピの音が気持ちよく転がる「All In」、淡々としたドラム・トラックとホーンが流されるなかヴォーカル/コーラスがワサワサと重なる「On Fire」、デイヴィッド・スプラドリーのシンセ・ベースがブリブリ唸る「Loodie Poo Da Pimp」は、トレイシーのラップ・シンギングもなかなかカッコいい。
ファンカデリック的なハードなロック調「Mama Told Me」、ドラムがクリス・デイヴとブラックバード(はギター&ベースも)、キーボードがアンプ、ホーン・アレンジはフレッドの「Set Trip」は、待ってましたの正調パーラメント・スタイルのファンク・チューン。ここでのトレイシーのスウィンギーなヴォーカルも素晴らしい。「Kool Aid」はアーバンな雰囲気もあるが、やはりPファンク調としか言いようのない曲。

ディスク2に移って、クリス・デイヴがドラムス、トレイシーがギターとベースを弾く「Dada」は、P印の哀愁が美しいスロー・ファンク。「Pain Management」はジョージのザラザラのささくれヴォーカルがチクチク刺さるスロー。「Riddle Me This」も、アレンジもコーラスも典型的なPファンク・ナンバーで、この曲の演奏のほとんどを手がけたUKのPファンク・フォロワー、ロブ・マンゾーリは元ライト・セッド・フレッドのギタリストとのこと。
ブラックバードがギター、ベース、ドラムを演奏した「No Mos」は水中を揺蕩うような幽玄グルーヴ曲で、スレイヴのスティーヴ・アーリントンがヴォーカル参加。謎のストーン姓、コリー・ストーンなる人物が管以外の演奏すべてを手がける「Ya Habit」もPファンクど真ん中の曲。「Higher」はケンドラ・フォスターがリードを取る。

アルバム・タイトル曲の「Medicaid Fraud Dogg」も、このホーンが入ってきただけでPファンクの色に染まる。バーニー・ウォーレル「Insurance Man For The Funk」のリメイクとなる「Insurance Man」は、あの哀愁コーラスもそのままに現代ファンクへアップデート。「Type Two」はズブズブ沈みこむようなシンセ・ベースが強力なファンク・チューン。
ラストの「First Ya Gotta Shake The Gate Medley」はライヴ音源。ジョージの孫トラファエルとゲイリー・シャイダーの息子ギャレットを含むバンドで「Pole Power」「Baby Like Fonkin' It Up」「Meow Meow」「Get Low」をメドレーで演奏。

随分長いレヴューになってしまったが、それも本作が相当な力作が故。年季の入ったファンカティアはもちろんのこと、普段はヒップホップやR&Bを聴いている若いブラック・ミュージック・リスナーにも、コレをキッカケにPの泥沼に足を突っ込んで戻れなくなってほしい。

追記
ちょっと調べてみたら、どうやらトレイリュードとトレゼイ(Tra'Zae)は同一人物ではなく、親子らしい。つまりトレゼイもジョージの孫。名前が同じトレイシーなので同一人物だと思ってしまっていたが、Jr.ということか。しかしそうなると、Tracey Lewis 及び Tracey Lewis-Clinton というクレジットは、このトレイシー親子のどちらなのか判別できないのだが。ん~ん、さすがPファンク伝統のクレジット芸。