trouble over here trouble over there
Trouble Over Here, Trouble Over There / Trouble Funk
 Island '87 

トラブル・ファンクが80年代前半にリリースしたアルバム『Drop The Bomb』『In Times Of Trouble』では、本来ライヴでこそ真価を発揮するGo-Goビートの脈動するダイナミズムを、可能な限り勢いを削ぐことなくスタジオ・レコーディングにて真空パックすることに成功していた。80年代のGo-Goの躍進の頂点が映画『Good To Go』だとすれば、それまでの時点で唯一メジャーなGo-Goバンドであったトラブル・ファンクの存在、そして彼らの80年代前半の2枚のスタジオ録音アルバムは、Go-Goブームに大きく貢献したのではないかと想像する。

1987年にリリースされた本作『Trouble Over Here, Trouble Over There』は、トラブル・ファンクの、そしてアイランドのGo-Go世界戦略を更にもう2歩も3歩も推し進めんと目論んだ野心作ではあったのだと思う。
Go-Goとほぼ同じタイミングでオーバーグラウンドへと浮上してきたヒップホップは、前年の86年にランDMC「Walk This Way」が大ヒット。そして87年にはテディー・ライリーがキース・スウェット「I Want Her」でニュー・ジャック・スウィングの狼煙を上げた。そういったブラック・ミュージック・シーンの大きな変革のウネリを横目に睨みつつ制作された本作。そのカギを握るのは本作中3曲でプロデューサーとして起用されたブーツィー・コリンズ。

70年のJBファンク革命でもキーマンとなる働きをし、70年代半ばにはジョージ・クリントンの文字どおり右腕としてPファンク黄金律を確立し、軍団の実務面を取り仕切ったブーツィー。ファンク・ミュージックの歴史において2度もディープ・インパクトを残したブーツィーは、80年代初めにもザップの1stアルバムをロジャーと共同プロデュースするなど依然としてファンクの最重要人物の1人だったが、自身のリーダー作は82年の『The One Giveth, The Count Taketh Away』を最後にリリースがストップ。徐々に表舞台から遠ざかっていった。
ブーツィーが本格的に前線復帰するのは88年の『What's Bootsy Doin'?』だが、その前年にリリースされた本作と、ブーツィーが全面的にプロデュースした新人アーティスト、マイコ・ウェイヴ『Cookin' From The Inside Out!!!』は、その前哨戦といったところだろうか。ブーツィー自身も相当気合いが入っていたと思われ、プロデュースした3曲ではベース、ギター、キーボード、ドラムスまでも演奏する力の入れよう。

ブーツィーのラップ/ヴォーカルの呼び込みでスタートする(十八番の"Wind Me Up!"も披露)アルバムのオープニング・ナンバー「Trouble」は、Go-Go要素皆無のエレクトロ・ファンク。この当時のファンク・ナンバーとしては決して悪い出来ではないと思うが、パーカッシヴなグルーヴが躍動する「Drop The Bomb」や「Say What」などのかつてのGo-Goクラシックと比べると、このスクエアなマシン・ビートはどうしても淡泊に聴こえてしまう。
「Woman Of Principle」もいかにも80年代的なダンス・ナンバーで、もはやGo-Goの欠片もない。「New Money」のようなファンクも、コレはトラブル・ファンクというよりも完全にブーツィーの作風で、ブーツィーのファンとしては嬉しいのだが、このバンドの持ち味が生かされているとは言い難い。

残りの5曲はトラブル・ファンクのメンバーによるプロデュース。「Hey Tee Bone」ではようやくGo-Goビートが聴けて一安心。音がやや軽くなっているのは時代を考えれば仕方のないことか。「All Over The World」はレゲエっぽいリズムを取り入れた曲で、土臭い感触がイイ。グラハム・セントラル・ステーション「People」の一節も出てくる。
「Stroke」もGo-Go感希薄な軽めのエレクトリック・ファンク。「Sexy」はファンクとGo-Goを7:3ぐらいでミックスしたような曲で、パーカスのチャカポコ感とホーンのアタックがやはりキモ。カーティス・ブロウがラップとプロデュースに加わった「Break It Up」は、オールド・スクールなGo-Go/ヒップホップ折衷曲。

中途半端なクロスオーバー路線によりGo-Goの生命線である生々しく躍動するビート/グルーヴを削いでしまった印象の本作は、結果的には大失敗だったと言わざるを得ないだろう。Go-Goのトップ・バンドがコケたことで、シーン全体の勢いも急激に失速してしまったのは残念だ。