melting pot
Melting Pot / Booker T. & The M.G.'s
 Stax '70 

スタックスのハウス・バンドとして、南部のソウル・ミュージックの黒く土臭い音を体現してきたMG's。
オーティス・レディングやサム&デイヴなど、同社のスター達の数多くの名作・名曲でバックを担ってきただけでなく、自分たちを主役として多くのインスト・アルバムもリリースしてきた。初期のスライ&ザ・ファミリー・ストーンやミーターズなども、彼らの影響を受けていたのは間違いない。
オーティスが悲劇的な事故でこの世から去って以降、アトランティックと訣別したスタックスはサム&デイヴも失うなど、レーベルを取り巻く状況が激変。この危機を救ったのが、それまで作曲家としてスタックスを支えてきたアイザック・ヘイズで、ソロ・アーティストへと転向しヒットを連発、スタックスの新たな看板スターとなった。それらヘイズ作品で起用されたのはMG'sではなく、ヘイズの専属バンドであったムーヴメントやバーケイズ。ファンクの時代たる70年代を前に、スタックス内部でも大きな変化が起こっていたのだろう。

1970年リリースの本作『Melting Pot』は、彼らがギリギリ時代にアジャストしようとした作品で、これまでのMG'sの作品とは印象が異なる(曲を含む)。かつて彼らの影響下にあったスライやミーターズが創造したファンク・サウンドを、今度はMG'sが取り込もうとしている。
その最たる例が、アルバム・タイトル曲の「Melting Pot」。アル・ジャクソンJrのドラムスとドナルド "ダック" ダンのベースがディープなグルーヴのウネりを生み出し、スティーヴ・クロッパーがファンキーなカッティングをキメ、ブッカー・T・ジョーンズのオルガンが渦巻く。どこかサイケデリックな感触もあり、またソウル・ジャズ的な雰囲気もあるグルーヴィーな傑作ファンク・インスト。

アルバムの中ではこの曲が傑出しており、他では「Chicken Pox」がスライ「Sing A Simple Song」を思わせるような曲調の土臭いサザン・フライド・ファンクでカッコいいが、それ以外の曲は従来路線を維持。
それらの曲でのMG'sの演奏はファンキーではあっても、やはり古い60年代のR&Bスタイルであり、結局70年代の新しいファンク・ミュージックには上手く対応できなかったのかもしれない。もちろん、それはそれで楽しめるし、「Fuquawi」や「Kinda Easy Like」「L.A. Jazz Song」など聴き応え十分。

ブッカーTは本作を最後にスタックスを、そしてMG'sを離れてしまうのだが、本作はいろいろな意味で時代の変わり目を感じさせる作品であり、このバンドの変化と限界が表れたアルバムなのだと思う。