lewis taylor
Lewis Taylor
 Island '96 

ロンドン出身の奇才・孤高の自作自演派アーティスト、ルイス・テイラー。
この人が本国UKでどの程度知られている人なのか分からないが、評価やセールスに恵まれず現在は音楽活動をやめてしまったことを考えると、本国でもほとんど顧みられることのなかった人なのだろうと思う。USでも一般的にはほぼ無名(だがディアンジェロら一部のアーティストからの評価は高い)、ここ日本ではごく一部の酔狂なR&Bマニアには熱心に聴かれているカルト・ミュージシャン。

その音楽性は他の誰とも違うオリジナリティーの塊。いびつに歪んで奇妙に入り組んたサウンドはサイケデリックな感触も湛え、多重録音を駆使したヴォーカル/ハーモニーはマーヴィン・ゲイのように滑らかなようでいて、触れると表面はささくれ立っている。それこそプリンスやディアンジェロを引き合いに出したくなる異能の持ち主。90年代後半のニュー・クラシック・ソウルの文脈で語られることもしばしばだが、ソウル・ルネッサンスとも言うべき伝統復古的な側面もあるNCSとは、だいぶ距離があるようにも思える。
テイラーがマーヴィンやスティーヴィーに影響を受けていることは明らかだが、それと同じぐらいにロックをはじめ様々な音楽を聴きインスパイアされてきたこともまた間違いなく、そんなテイラーの生み出す音楽がR&Bやソウルといった枠に収まりきらないものであることも必然と言える。

斯く言う自分はアイランドからリリースされた最初の2枚しか聴いていないので、テイラーの熱心なファンとは言い難いかもしれないが、その2枚は今聴いても新鮮な驚きに満ちているし、今だに謎めいている。より完成度を高めた2ndアルバム『Lewis Ⅱ』も傑作だが、この1stアルバムはまだアイディアや素材の断片のみが横たわっているような曲も多いのだが、その未完成なところが面白かったりもする。サイケデリックな迷宮感覚やアシッドな酩酊感を湛えた、異形のオルタナティヴR&B。歌も演奏もパートがどれも微妙に噛み合っていないような奇妙な不整合感にクラクラと眩惑される。

「Lucky」は70~71年頃のカーティスと『暴動』期のスライと『Here, My Dear』あたりのマーヴィンがセッションしているような、何と表現したらよいか分からないがとにかく異様な曲で、どうやったらこんな曲が出来るのか見当もつかないが、素晴らしい。
「Bittersweet」は妙に生々しいタイコの音が刻むビートに、ギターと多重ヴォーカルが絡みつくサイケデリック・ソウル。「Whoever」はスムーズなようでいて、やはり奇妙な引っ掛かりがあちこちに仕掛けられている。「Track」は何とも捉えどころのない序盤から、後半は展開しまくり最後はまったく別の曲のような様相。

アンビエントでスカスカなトラックが当て所なく浮遊する「Song」、噛み合わないままゴキゴキと動く歯車のような「Betterlove」、南部ソウル的な感触もあるアーシーなミディアム「How」は、本作中では最もマトモな曲。
重金属的なビートに浮遊感たっぷりのウワモノとヴォーカル&コーラスが漂う「Right」、ヘンテコなメロディーが気持ち悪くもクセになる中毒性の強い「Damn」は、サイケデリックに渦を巻くカオスな曲終盤はファンカデリック的。「Spirit」は幾重にも重ねた声のみでスピリチュアルなムードを醸す。

ジャケ違いで曲順も異なる日本盤には、ボーナストラックを2曲追加。
「I Dream The Better Dream」はどこか幻想的でエキゾチックな匂いもする、でもやはり相当屈折した曲。「Waves」は重いビートと力強いアコギが異彩を放つ。どちらもアルバム本編と通底するムードを湛えており、違和感はない。