verbal penetration
Verbal Penetration / Jesse Johnson
 Elite Artist Services '09 

プリンス直系のファンク・バンド、ザ・タイムのギタリストとしてデビューしたジェシー・ジョンソン。
タイム脱退後、80年代後半には大手のA&Mからソロ・アルバムを3枚リリース。隠遁中のスライを引っ張り出したり、ジャネット・ジャクソンの大ヒット・アルバム『Rhythm Nation 1814』に参加(ジェシーのギター・ソロをフィーチャーした「Black Cat」はシングル・リリースされ全米No.1ヒット)するなど話題を振り撒いた。また、ダ・クラッシュ(後にクール・スクールに改名)を送り出すなどプロデュース業にも進出、順調にキャリアを積み重ねていったかのように見えた。
が、90年代以降は活動が停滞してしまう。ジェシーはマルチ・プレイヤーでもあり、生粋のミュージシャンだが、台頭するヒップホップとうまく折り合いがつけられなかったことが低迷の一因だろうか。90年以降、現在までにリリースしたソロ・アルバムは僅かに2枚のみ。時折同窓会的に再結成するザ・タイムに参加する以外は、目だった動きはなかったように思う。

状況に変化が訪れるのは2012年。『Voodoo』以来の復活を期すディアンジェロの約12年ぶりのツアーのバック・バンド、テスティモニーに参加して注目を集める。テスティモニーはやがてヴァンガードへと発展し、ディアンジェロの15年ぶりの3rdアルバム『Black Messiah』へと繋がっていく。
言うまでもなく、ディアンジェロにとってプリンスは憧憬の対象であり、最も影響を受けた人物のひとり。ある時期まではプリンスの別ペルソナとでも言うべき存在だったザ・タイムのギタリストであったジェシーもまた、ディアンジェロにとってのギター・ヒーローだったに違いない。この時からジェシーはディアンジェロのギターの師匠となり、またもしかしたらメンター的な存在になったのかもしれない。ディアンジェロは引籠り中にギターを猛練習していたらしいが、ギターの腕をメキメキ上げていったのはジェシー先生の指導のおかげなのかもしれない。

2009年リリースの本作『Verbal Penetration』はジェシーの5枚目のソロ・アルバムにして、現在のところ最新作。
ここで聴けるのは、ミネアポリス流儀のファンクはもちろん、ロックやジャズ、更にはネオ・ソウルも通過した幅広く成熟した音楽。もちろん、あちこちにプリンスの残像が写り込むが、プリンスの影響を受けた上で自分のオリジナリティへと昇華した、ジェシー・ジョンソンの音楽として成立している。
ジェシーのギターもたっぷり聴けるが、決して一ギタリストのリーダー作ではなく、プロデューサー/マルチ・ミュージシャンとしての才を存分に発揮し、トータルのクオリティは非常に高い。また、シンガーとしても80年代から格段に成長した姿を見せてくれる。ファルセットからテナー、地声を交えたヴォーカル・スタイルはプリンス的ではあるが、ファルセットの艶はカーティス・メイフィールドみたいに聴こえるし、ファルセットから地声までを継ぎ目なく滑らかに移行する様は、マーヴィン・ゲイとまでは言わないがディアンジェロなんかを思わせたりも。
興味深いのは、コレがおそらくディアンジェロと出会う前の作品だということ。当然、ジェシーは『Brown Sugar』や『Voodoo』を聴いていただろうし、それらの作品からインスパイアされた部分はあったに違いない。
CD2枚組の大ヴォリュームで、正直後半はややダレる部分もあるが、これは相当な力作。少なくともディスク1はかなりの完成度だ。この時点でのジェシーの集大成であり、ソロ・アルバムとしてはコレが最高傑作だろう。

ディスク1の冒頭のアルバム・タイトル曲「Verbal Penetration」から、何ちゅうカッコいいロッキン・ファンク。ムズムズするような絶妙なリズムに、いかにもなギター・ソロも入って、これぞジェシー・ジョンソンのファンク。続く「Propaganda」、コレもイイ。セクシーなスムーヴのミドルで、プリンスmeetsネオ・ソウルな雰囲気だが、しっかりジェシー流のファンクになっている。
UとRを使いまくったタイトルが殿下流儀な「U & I R We R Us」はスムーズなR&Bミドル。もうタイトルからして弩ファンキーな「100 Watts Of Funky」も、まさにジェシーらしいスタイリッシュなミネアポリス・ファンクで最高と言う他ない。「Merciful」はジャジーなトラックに長尺ギター・ソロが乗るインスト曲。「Don't Throw Yourself Away」はステイプル・シンガーズ「Let's Do It Again」っぽい雰囲気のほんわかミディアムで、カーティス/ディアンジェロ的なファルセットで歌うネオ・ソウル調。

「Slo Burnin」コレもセクシーでグルーヴィーなジェシー・ファンク。もうこの手の曲は全部カッコいい。「Sheila Rae」は華やかなムードのアーバン・ソウルで、ここでもジェシーの艶めかしいファルセットが映えまくる。「Love Letters」はジャジーなネオ・ソウル風の美メロウ・ミディアム。
ループ感の強いトラックにミネアポリス・ファンクのエッセンスを注ぎ込んだ「Slave 2 R Freedom」、「We R So Strong」はシタールとジャジーなギターに、もう1本入っているカーティスっぽいギターが擽るスウィート・ソウル。「Beautiful Sadie」はギター・メインのインスト・トラックで、「She's Always In My Hair」みたいなリフも出てくる。

ディスク2は、単調なトラックに語りを乗せたような曲が多く、そういった曲はやや退屈に感じたりもするが、それ以外の曲はディスク1同様に聴き応えある。
ズッシリとしたリズムを刻むファンク・ロック・ナンバーの「Get Next To You」や「In The Key Of Nudity」、「Ali Vs Frazier」はスウィンギーな4ビートで、ジェシーの流麗なジャズ・ギターが聴ける。「Please Let Me Go」や「You Have A Friend」、さらに「Letter From A Soldier」や「Peace Be With You」など、柔らかなメロウ・ソウル・ナンバーもたんまり入っていて気持ちイイ。