reaching out
Reaching Out / Freda Payne

 Invictus '73 

モータウンの専属ライターとして夥しい数の名曲・ヒット曲を生み出した作曲チーム、ホランド・ドジャー・ホランド。彼らがモータウン離脱後に設立したレーベルであるインヴィクタス及びホット・ワックスは、モータウンがLAに去った後の70年代前半のデトロイトに根を張り、骨のあるデトロイト・ソウルを送り出し続けた。

HDHはレーベル運営にあたって、モータウンを参考にしていた部分があったのだと思う。テンプテーションズやスモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ、フォー・トップスなどキラ星のごとき男性ヴォーカル・グループのスター達がヒットを飛ばしたモータウンに対し、インヴィクタスはチェアメン・オブ・ザ・ボードや100プルーフ・エイジド・イン・ソウル、そしてバリノ・ブラザーズなどの実力派グループを擁した。女性ヴォーカル・グループも、モータウンのスプリームスやヴァンデラスに対し、ホット・ワックスにはハニー・コーンがいた。
また、インヴィクタスからはパーラメントの1stアルバム『Osmium』が出ているが、これなども70年前後のテンプスのサイケデリック・ソウル路線に準えることが出来るかもしれない(ジョージ・クリントンはHDH同様にかつてモータウンとライター契約もしていた)。自身のグループ、ポリティシャンズでサイケなファンク・アルバムをホット・ワックスからリリースしたプロデューサー/アレンジャーのマッキンリー・ジャクソンなんかは、モータウンのノーマン・ホイットフィールド的な存在と言えるの
かも。

だいぶ前置きが長くなったが、インヴィクタスの歌姫として同レーベルからアルバム3枚をリリースしたフリーダ・ペインは、モータウンで言うところのダイアナ・ロスのポジションだろう。
フリーダのデビューは意外に早く、最初のシングルは62年、彼女がハタチになる年に出されている。60年代にはインパルスやMGMからアルバムをリリース、これらは未聴だが、キャリアの初期はおそらくジャズ/ポピュラー系のシンガーだったようだ。
その後HDHに見初められ、70年にインヴィクタスからの1枚目『Band Of Gold』、71年に2枚目『Contact』をリリース。それらの作品は曲良し、歌良し、演奏良しの素晴らしい内容のポップ・ソウル・アルバム。また数々の作品のジャケットからも分かるようにかなりの美貌の持ち主であり、一方でシンガーとしての実力も十分。

斯様に、先の2枚のアルバムも良い作品だが、個人的にそれ以上に好きなのが、インヴィクタスからの3枚目となる本作『Reaching Out』。もちろん本作もこれまで同様にインヴィクタスの精鋭が完全バックアップしているが、前作と比べると作曲面でのHDHの関与は相対的に減少、代わりにマイケル・ラヴ・スミスやロナルド・ダンバーの貢献が目立つ。もちろん、曲は粒揃い、アレンジもより洗練されている。
ジャケットに写る水着姿のフリーダ嬢に目を奪われがちだが、ジャケット・内容とも素晴らしい良作だと思う。

アルバム・オープナーのジワジワっとグルーヴするミディアム「Two Wrongs Don't Make A Right」から、小悪魔っぽいセクシーさを振り撒くフリーダの吐息混じりヴォーカルに早くも骨抜きに。アルバム・タイトル曲の「Reaching Out」は確かな歌唱力でしっかり聴かせるバラード曲。
ややポップ寄りのメロディアスなバラード「For No Reason」、フルートの音色がメロウネスを湛えるミディアム・スロウ「The Man Of My Dreams」、「Mother Misery's Favorite Child」はゴリゴリ唸る極太のベースと拉げたワウ・ギターが泡立つ土臭いグルーヴに、スリリングなストリングス・アレンジが入ったニュー・ソウル的なファンキーなナンバー。

「We've Gotta Find A Way Back To Love」はアーシーで硬質なパーカッションの入りから、グルーヴィーなドラムス&ベースに、デイヴィッドTばりの煌めきのギターが瑞々しく広がっていく名曲。「Mood For Love」は60年代モータウンのムード濃厚なポップ・ソウルが弾む。
濡れた情緒がじんわり沁みるカーペンターズの名曲カバー「Rainy Days And Mondays」もフリーダの歌唱力が活きる。セリフ回しっぽい芝居がかったヴォーカルの歌劇調バラード「If You Go Away」は個人的にはあまり好みではないが。ラストの「Right Back Where I Started From」もモータウン的なポップ・ソウル佳曲。