basic beats sampler
Basic Beats Sampler
 Hollywood Basic '92 

90年代初頭にディズニーが出資し設立されたヒップホップ専門レーベル、ハリウッド・ベーシック。
このレーベルの運営責任者として実務面を取り仕切っていたデイヴ・ファンケンクラインは、一癖も二癖もある新進アーティストたちと契約し、ディズニー資本というイメージを覆すようなレーベル・カラーを築き上げた。
レーベルの看板アーティストとなったのは、ファロア・モンチとプリンス・ポエトリーの実力派2人組、オーガナイズド・コンフュージョン。更に、話題を呼んだのがライファーズ・グループで、終身刑で服役中の囚人達を集めて獄中でレコーディングを行った。古くはエスコーツやアイク・ホワイトなど、服役囚による獄中録音のソウル・レコードの例はあるが、ヒップホップ・グループとしては前例のない試みだった。
その他、トミー・ボーイから『Sex Packet』をリリースしたデジタル・アンダーグラウンドのメンバー、マネーBとDJフューズによるユニット、ロウ・フュージョンや、ジンバブエ出身の兄弟MC2人組、ジンバブエ・レジットなど、個性豊かなメンツが顔を揃えた。

本作『Basic Beats Sampler』は、その名のとおりハリウッド・ベーシック所属アーティストの楽曲を集めたレーベル・サンプラーとなるコンピレーション。各アーティストの単独アルバムで聴ける楽曲も多いが、12インチ・シングルのみのリミックス・ヴァージョンや、本作でしか聴けない音源もあるので侮れない。このレーベルの全体像を手っ取り早く把握するには打ってつけの好編集盤だ。

オーガナイズド・コンフュージョンの2曲は、いずれも彼らの1stアルバム収録曲。「The Rough Side Of Town(South Side)」はグローヴァ―・ワシントンJr「Black Frost」、レス・マッキャン「North Carolina」のドラムをサンプリングし、ファロア・モンチとプリンス・ポエトリーのタフなラップも頗るカッコいい。
「Open Your Eyes」はハービー・ハンコック「Cameleon」をサンプリングしたグルーヴィーなジャズ・ファンク・トラックに、ゴスペル・クワイヤ風のコーラスとチャーチなオルガンも加えた、まさに聴く者の目を見開かせるような昂揚感を持った神曲。

ライファーズ・グループ「The Real Deal(Shadow Remix)」は、彼らのデビューEP収録曲をDJシャドウがリミックスしたもので、荒々しいビートのファンク・トラックにガッチリ噛み合ったラフでタイトなラップが相当カッコいい。「Belly Of The Beast」もデビューEP収録曲で、これもビートが強力でMCもそれぞれ個性があって面白い。
彼らのデビューEPは未聴なのだが、92年のフル・アルバム『Living Proof』(これは傑作!)ともども、デンマークのソリッド・プロダクションというチームがプロデュースしており、彼らの作るトラックが非常にファンキーで素晴らしい。また、ライファーズ・グループの面々のラップもなかなか達者で、かつタイプの異なるMCが揃っていてバランスが良い。

ロウ・フュージョンの「Rockin' To The P.M.(Oaktown Homies Remix)」は、彼らの1stアルバム『Live From The Styleetron』収録曲を、トニ・トニ・トニのドゥウェイン・ウィギンズがリミックスしたもの。DUのピアノマンのキーボードがたっぷり入ったジャジーでスウィンギーなトラック、マネーBのスモーキーなラップもジャイヴしていて、コレは堪らないカッコよさだ。
「Throw Your Hands In The Air」も1st収録曲で、ベル・ビヴ・デヴォー「Poison」、ヴォーン・メイソン&クルー「Bounce, Rock, Skate, Roll」、ブラック・ヒート「You Should've Listened」などをサンプリングしたパーティー・チューン。

ジンバブエ・レジットは1曲のみだが、「Rhymin' Wit The African Symphony」はトライバルなアフロ・パーカッション主体のトラックに、兄弟が流れるようなラップを乗せる。彼らはアルバムを制作するも結局ハリウッド・ベーシックからリリースされることはなかったが、この曲を含むそのアルバム『Brothers From The Mother』は2005年になってようやく日の目を見た。
ラスト・アクースティック・リメインズはソリッド・プロダクションのメンバーを含む4人組バンドとのこと。「Untitled」は骨太なインスト・ファンクで、ブレイケストラにも十分対抗できそうな演奏を聴かせる。

本作中で最も異彩を放つ存在は、クイーンの有名曲のリミックス2曲だろう。「We Will Rock You(Ruined By Rick Rubin)」はリック・ルービンによるリミックスで、あのお馴染みのビートがよりマッシヴに強化されている。
「Another One Bites The Dust(Long Dusted B-Boy Version)」はソリッド・プロダクションによるリミックスで、ロウ・フュージョンの2人も参加。シック「Good Times」丸パクリのベース・ラインを軸に、サー・ジョー・クォーターマン&フリー・ソウル「(I Got)So Much Trouble In My Mind」、ジェイムス・ブラウン「It's Too Funky In Here」、ブッカーT&MG's「Hip Hug-Her」などなどを目まぐるしくサンプリング。
アルバムの最後に収録されているのは、12分半に及ぶDJシャドウの「Basic Mega Mix」。本作収録曲のみならず、ハリウッド・ベーシック音源をたっぷり使ったメガ・ミックスになっている。

そのスジからは高い評価を得ていたハリウッド・ベーシックだが、セールス的には厳しかったようで、リリースは徐々に先細りしていき、95年にはファンケンクラインの死去によりレーベルは閉鎖されてしまう。実働僅か5年ほどと短命だったが、特にOKの1stなど、クラシックとして聴き継がれる作品も残した、強く印象に残るレーベルだった。