skin
Skin / Ephraim Lewis
 Elektra '92 

UK出身の男性R&Bシンガー、イーフレイム・ルイスの唯一のアルバム『Skin』。
本作がリリースされた92年当時、本国UKで80年代末に瞬く間に広がったグラウンド・ビートは既にピーク・アウトし始め、代わりにアシッド・ジャズが勢いを見せていた頃。一方でUSでは猫も杓子もニュージャック一色だったR&Bシーンに、徐々にヒップホップ・ソウルが台頭し始めた、そんな時期だったと思う。
そんな目まぐるしくトレンドが移ろう時代の転換点とも言える頃にリリースされた本作は、アシッド・ジャズでもなければもちろんヒップホップ・ソウルでもない、当時のメインストリームからはかけ離れた孤高の作品。本作をしてオルタナティヴと一言で片づけてしまうのは容易だし、シャーデーやシールを引き合いに出すこともできるだろうが、それとて特段似ているワケでもない。

ケヴィン・ベーコンとジョナサン・クォンビーという非R&Bフィールドの人たちが制作を担っているためか、たしかにオルタナティヴな風合いを感じさせる部分はあるが、生音主体のサウンドはクールで滑らかなグルーヴが実に心地よく、70年代のメロウなソウル・ミュージックをベースに、ジャジーな要素や曲によっては自身のルーツ(両親はジャマイカ移民)を辿るようにダブ/レゲエ風味も加えてみせる。
そして何よりルイスのヴォーカルが素晴らしい。サウンド同様に滑らかでシルキーなその声は、しかしただ甘いだけではなく、ザラザラした舌触りと苦味が溶け残る。
そのサウンドやヴォーカルから、マーヴィン・ゲイからの影響を受けただろうことは間違いないこの作品、今でも時々引っ張り出して聴いているが、四半世紀以上経った今聴いても実に瑞々しく、いささかも色褪せていないように感じられるのが凄い。当時の流行の音楽の多くが今の耳には古臭く聴こえてしまうのに対し、ルイスの声と音楽は当時の鮮度を保ったまま、まるで時が止まっているかのようだ。

アルバムのオープナーとなるタイトル曲「Skin」は、重々しい空気が立ち込める荒涼とした大地を思わせるサウンドを、ルイスの懊悩と官能が交差するようなヴォーカルが彷徨い流離う。「It Can't Be Forever」は地を這うようなむ重いビートとアンビエントなサウンドが凍てつくような空気を醸し出す。「Drowning In Your Eyes」はジャジーなムードを演出するミュート・トランペットが霧がかり、ラテン味を匂わすパーカッションがリズムを転がすメロウなミディアム・ナンバー。ルイスの柔らかくしなやかなヴォーカルも非常に心地よく、個人的には本作のベスト・トラック。
「Mortal Seed」はロック寄りで、即ちシールっぽいという感じもする曲。やや大仰なパワー・ポップ系だが、ドラマティックに盛り上がる曲調はシングル・ヒットしてもよさそうなポテンシャルを秘めている。「World Between Us」は絶妙なテンポで揺れるミドル・チューンで、サビのファルセット混じりの伸びやかな歌唱がやはり素晴らしい。

「Captured」はダークなグルーヴに横たわる陰影の深いメロディーを手繰る、フットワークに長けたルイスのヴォーカル・ワークに聴き惚れる。幻想的で濡れたスロウの「Summer Lightning」は、夏の夜、闇を切り裂く一瞬の閃光を放つようなルイスのヴォーカルが堪らなく美しく、涙が出そうなほど感動する。
「Rule For Life」は粘っこいグルーヴを引きずるファンキー・ナンバーで、本作中ではやや異色だが、ファンクを歌わせてもスゴいことを証明。「Sad Song」は重いベースとドラム・ブレイク、乾いたパーカッションを絡めたダブっぽい曲調。ラストの「Hold On」は、ホーンも入って比較的オーセンティックなソウル・ナンバー。グルーヴィーなサウンドに熱くソウルフルなヴォーカルをストレートにぶつける。

これほどの傑作にも関わらず、残念ながら本作はセールス的には恵まれなかったようだ。これがもう3~4年リリースが遅ければ、ニュー・クラシック・ソウルの波に上手く乗れたのではないかとも思う。
その後ルイスは2ndアルバムの制作のために渡米。レコーディングでロスに滞在中だった94年3月、ルイスは謎の転落死を遂げる。享年26歳。
薬物の影響とも言われたが、結局真相は明らかにされていない。彼がこの時2ndアルバムを完成させていたら、そしてその後も音楽活動を続けていたら、どんな素晴らしい作品を聴かせてくれていただろうかと思うと、本当に残念でならない。ひょっとすると、現在のディアンジェロのポジションに座っていたのは、彼だったかもしれない。それほどの逸材だったと思う。