places and spaces
Places And Spaces / Donald Byrd
 Blue Note '75 

ドナルド・バードを知ったキッカケは、ピート・ロック&C.L.スムース「All The Places」だったか、それともブラック・ムーン「Buck Em Down」だったか。
いずれの曲も、75年のジャズ・ファンク/レア・グルーヴのマスターピース『Places And Spaces』からサンプリングしている(前者は「Places And Spaces」、後者は「Wind Parade」を使用)。そうしたキッカケで94年頃に手に入れたこのアルバムを非常に気に入って、当時は本当によく聴いていた。

40年代から活動を開始していたジャズ・トランペット奏者ドナルド・バードも、70年代に入ると他の多くのジャズメン同様にファンク/ソウルを取り入れたサウンドにシフトしていくことになる。バードのジャズ・ファンク路線の舵取りを担ったのは、ラリー&フォンスのミゼル兄弟=スカイハイ・プロダクション。
スカイハイ・プロデュースのバード作品第1弾となる73年の『Black Byrd』が大ヒットを記録し(当時、ブルーノート史上最も売れたアルバムとも)、ミゼル兄弟も自信を深めたのだろう、バードとはその後4作をつくり、またボビー・ハンフリーやゲイリー・バーツ、ジョニー・ハモンド・スミスのプロデュースも手掛けた。
スカイハイのプロダクションは、それがバード作品だろうがハンフリー作品だろうが、どこをどう切ってもミゼル印の金太郎飴サウンド。オーバー・プロデュース気味ではあるが、あの耳障りのいいメロウなジャズ・ファンク・サウンドをひとたび気に入れば、どの作品を聴いても当たり、となる。

本作『Places And Spaces』はミゼル兄弟プロデュースによるバード作品としては4枚目にあたる。『Black Byrd』以降、『Street Lady』『Stepping Into Tomorrow』と徐々に黒いストリート臭が薄れメロウ成分が増していくが、本作では更にメロウネス極まった印象。ジャケットのイメージそのままの、爽快なメロウ・グルーヴ/ジャズ・ファンク・サウンドは気持ちイイことこの上ない。
本作でも、ハーヴィー・メイソン、チャック・レイニーらスカイハイのレギュラー・メンバーが鉄壁のバッキングを繰り広げる。主役であるハズのバードのトランペットは特に目立ったソロを取るワケでもなく、緻密なバンド・アンサンブルや構成の巧みさに重点が置かれており、楽曲のクオリティやアルバムの完成度は頗る高い。バードとミゼルの連携はこの後にもう1枚『Caricatures』があるが、本作こそが彼らのコラボレーションの頂点だろう。

アルバムのオープニング・ナンバー「Changes(Makes You Want To Hustle)」は、スリリングなストリングスを伴ってグルーヴィーに疾走する、ディスコ対応型ジャズ・ファンク・チューン。「Wind Parade」はウェイド・マーカスのあまりに美しく流麗なストリングス・アレンジが、まさに風に舞い踊るかのようなメロウ・グルーヴ。「Dominoes」はグルーヴィーなベース・ラインにスカイハイらしい男声コーラスが聴ける爽快なジャズ・ファンク・チューン。

アルバム・タイトル曲の「Places And Spaces」も美しく輝くストリングスがストリームを描き、柔らかいコーラスとトランペットが漂うメロウ・ナンバーだが、途中でエッジの立ったファンク・パートを挟む構成で飽きさせない。
バードと女性シンガーがデュエットする「You And Music」はややポップな味付けのダンス・ナンバー。「Night Whistler」はちょっと重めのミッドナイト・ジャズ・ファンク。ラストのテンプテーションズ「Just My Imagination」のカバーもメロウで爽快なジャジー・ソウル。