shockadelica
Shockadelica / Jesse johnson
 A&M '86 

84年の『Ice Cream Castle』を最後にザ・タイムは解散。ソロに転じたジェシー・ジョンソンは翌85年に早速1stアルバム『Jesse Johnson's Revue』をリリース、また、タ・マラ&ザ・シーンのデビュー・アルバムのプロデュースも手掛けるなど順調に活動を続け、86年には早くも2ndアルバムとなる本作『Shockadelica』をリリース。

すべてのプロデュース、アレンジ、作曲(1曲あるカバーを除いて)はもちろんジェシー自身。次作『Every Shade Of Love』からは多くの楽器をこなすマルチ・ミュージシャンとしてますます才能を発揮していくが、本作では2人の女性バック・ヴォーカルを含む9人編成のバック・バンドを起用。メンバーの中には後にNPGに加わるソニー・トンプソン(ソニーT)も。

打ち込みドラム・ビートをドコスカ叩き込む、勢いのあるファンキン・ロック・チューン「Change Your World」からアルバムはスタート。続く「Crazay」は引き籠り中だったスライ・ストーンを引っ張り出してきた本作の目玉曲。スライのヴォーカルも存外に力強く、なかなかカッコいいファンク・ナンバーだ。
やや軽めのポップ・ロックの「Baby Let's Kiss」、ずっしりミッド・グルーヴの「A Better Way」、「Do Yourself A Favor」はデビュー前のプリンスがギターでレコーディングに参加した94イーストの「If You See Me」という曲のカバー。オリジナル・ヴァージョンは『Symbolic Beginning Volume 1』などで聴けるが、ジェジーのヴァージョンは作者であるペペ・ウィリーがヴォーカルを取るオリジナルを凌ぐ出来。昨年出た『1999 Super Deluxe Edition』に収録されたプリンスによるカバー・ヴァージョン(タイトルは「Do Yourself A Favor」)を聴くと、ジェシーがプリンス版を参考にしたことは間違いないだろう。

「She(I Can't Resist)」はドラム・マシンのビートとギター・カッティングがちょっとザップ「Dance Floor」風のファンクだが、ジェシーらしくスタイリッシュでソリッドに聴かせる。「Addiction」もジェシー流ミネアポリス・ファンクで、やはりこの手の曲でジェシーは持ち味を最大限に発揮する。
まったりしたミディアム・ナンバーの「Tonite」、ドラムとベースでグルーヴを牽引するファンキーな「Burn You Up」、ラストの「Black In America」はアコースティック・ギターを掻き鳴らし歌う。

ところで、本作をめぐる有名なエピソードとして、プリンス「Shockadelica」事件がある。ジェシーの新作『Shockadelica』にアルバム・タイトル曲が存在しないことを聞きつけたプリンスが、素晴らしいタイトルのアルバムに表題曲が無いのは勿体ないとか何とか言って、ジェシーのアルバムがリリースされる前に「Shockadelica」というタイトルの曲を録音し、そのテープをジェシーに送りつけ、またミネアポリスのラジオ局に曲を流させた、というもの。
これを、いかにもプリンスらしいジェシーへの嫌がらせと捉えるか、それともプリンス一流のジョークと捉えるかは人それぞれだが、出来上がったプリンスの「Shockadelica」がまた素晴らしくファンキーな曲なのだから恐れ入る。

また、もうひとつの噂として、プリンスが自身の所有するラジオ局で、ジェシーの『Shockadelica』をキャミオの新作と紹介して曲をかけさせた、というものがある。自分はこのエピソードを、多分25年ぐらい前のBMR誌で丸屋九兵衛さんがそのように書いていたのを読んで初めて知った。まぁプリンスならさも有りなんという気もするが、嘘か誠か判然としない都市伝説的なエピソード、もしくは丸屋さんの創作したファンタジーとして自分は捉えていたのだが、実際のところはどうなんだろうか。