it must be magic
It Must Be Magic / Teena Marie
 Gordy '81 

1978年にアルバム『Come Get It!』でソロ・デビューしたモータウンの異端児、リック・ジェイムス。
バンドばかりのファンク・シーンにおいて稀有なソロ・アーティストとして、自らの音楽を"パンク・ファンク"と標榜し、デビュー・アルバム、シングルともにいきなりのヒットを記録して勢いに乗っていたリックは、同じくモータウン所属でデビュー前の白人女性シンガー、ティーナ・マリーに才能を見い出し、彼女のプロデュースをかって出る。
79年にはリックの全面プロデュースによるティーナの1stアルバム『Wild And Peaceful』がリリース。しかし、リックがプロデュースしたアルバムはこの1作のみで、2nd『Lady T』はリチャード・ルドルフのプロデュースを仰ぐも、3rd『Irons In The Fire』からはティーナ自身のセルフ・プロデュース体制へと移行する。

4作目となる本作『It Must Be Magic』のリリースは1981年。リックの代表作『Street Songs』と同じ年だ。
リックとティーナは出会いの後ほどなくして恋仲になったようだが、2ndアルバム以降はリックがティーナの作品に手を貸すことは無かった。が、ティーナは音楽においてもリックからいろいろと手解きを受け、影響を受けたのは間違いなく、リックが『Street Songs』でキャリアの最充実期を迎えたその時に、ティーナも代表作たる本作をモノにしたのは偶然ではないだろう。また、『Street Songs』にはリックとティーナのデュエット曲「Fire And Desire」が収録されているが、あの愛を交歓するような情熱的な歌唱を聴くと、2人の関係もこの頃がピークだったのではと思える。
本作では久々にリックの名前がクレジットされているが、2曲でちょっと歌うだけ。他に、パトリース・ラッシェンやテンプテーションズ、ジル・ジョーンズらが参加、ストリングス・アレンジは名匠ポール・ライザー。もちろん、作曲、アレンジ、プロデュース、すべてティーナ自身の手による。自ら制作もこなし、黒人大衆からも受け入れられた白人女性ファンカーとしては唯一無二の存在。後にも先にもこんな人は他にいないだろう。

ダンサブルなファンク・チューンのタイトル曲「It Must Be Magic」でアルバムはスタート。パンク・ファンク・ホーンズが華やかに盛り上げ、ポール・ライザーのストリングス・アレンジも華やかに彩る。「Revolution」はハネるリズムのアーバン・ファンクで、タイトなベースにロッキッシュなギター・リフもカッコいい。曲の終盤ではティーナのヴォーカルにリックも声を重ねる。
ウォーターズのゴスペル・コーラスをバックに従えたバラード「Where's California」、モダンでグルーヴィーなファンク/R&B「365」、「Opus 111(Does Anybody Care)」はハープとストリングス、波音のSEをバックに歌う小曲。

ティーナの代表曲となる「Square Biz」は、ウネるスラップ・ベースと噴き上がるホーン・セクションが『Street Songs』期のリック・ジェイムスそのままのパンク・ファンク。ティーナのラップも入りフレッシュな勢いで疾走する極上のダンス・クラシック。
ティーナと、本作の数曲でバック・ヴォーカルを務めているジル・ジョーンズの共作となる「The Ballad Of Cradle Rob And Me」はジャズっぽいアレンジで聴かせる。リックが語りを入れる「Portuguese Love」は、エキゾチックなラテン・テイストを忍ばせた情熱的な哀愁ミディアムで、この曲のポール・ライザーの弦アレンジも素晴らしい。ラストはドラマティックなストリングスを纏ったピアノ・バラード「Yes Indeed」。