bill withers
ビル・ウィザーズは、その朴訥とした歌い口が味わい深い魅力のシンガーだが、歌い手として以上に作曲家として高く評価されていると言っていいかもしれない。素朴でシンプルではあるが、それが故にいつの時代にも色褪せることのない輝きと強度を備えた名曲の数々は、ビルのソングライターとしての才を知らしめる。ビルの楽曲をカバーする者が今も後を絶たないことも、彼の残した詞やメロディが持つ普遍性の証だ。
スティーヴィー・ワンダーやマーヴィン・ゲイといった超ビッグネームを除けば、ビルは最も多くカバーされたブラック・ポップ作家の1人と言っても過言ではないのではないか。なかでも特に多いのが「Ain't No Sunshine」で、数が多過ぎてDiscogsでは調べきれない。本ブログでレヴュー済みのものでさえ、既に10以上のカバーがある。
アルバム単位で言えば、やはり『Still Bill』が多い。「Lean On Me」「Use Me」「Let Me In Your Life」「Kissing My Love」あたりは多数のカバーが存在する。
以下は、ビル・ウィザーズの名曲カバー18曲のプレイリスト。


1. Ain't No Sunshine / Roy Ayers Ubiquity  ('73)
  from 『Red Black & Green』
1stアルバム『Just As I Am』収録、ビルの代名詞的な曲である「Ain't No Sunshine」。哀愁滲むブルージーなオリジナルを、グルーヴィーなジャズ・ファンクへと見事に改変したロイ・エアーズによるカバー。ヴィブラフォンでテーマ部分を演奏する他は、原曲からは大きく逸脱した解釈を見せる。途中から聴いたらコレが「Ain't No Sunshine」だとは気付かないだろう。




2. Grandma's Hands / Gil Scott-Heron  ('81)
  from 『Reflections』
これもビルの代表曲のひとつである『Just As I Am』収録の「Grandma's Hands」。原曲とは相当に趣きが異なる、都会的なジャズ・ファンク・サウンドに仕立てたギル・スコット・ヘロンによるカバー。サウンドやアレンジは洗練されていても、曲に込められたメッセージはギルの紡ぐ説得力溢れまくる歌によって、より鋭さを増す。
reflections

3. Let Me In Your Life / Aretha Franklin  ('74)
  from 『Let Me In Your Life』
2ndアルバム『Still Bill』収録の、原曲の柔らかなメロウ・ソウルから一転、このアレサ・フランクリンのカバーはバーナード・パーディーのドラムスが繰り出す駆動力抜群のグルーヴに乗って、ソウルの女王が貫禄の歌唱でグイグイと突き進むファンキー・チューン。
let me in your life

4. Who Is He And What Is He To You / Me'shell Ndegeocello  ('96)
  from 『Peace Beyond Passion』
『Still Bill』から、原曲の持つ抑制の効いたクールなファンクネスを継承しつつ、ミシェルのベースがコシの強いグルーヴをより増幅させる非常に優れたカバー。ミシェルの冷めたアルト・ヴォイスもまたより一層クールでカッコいい。

 


5. Lean On Me / Ghana Soul Explosion  ('73)
  from 『Soul Makossa』
『Still Bill』収録、全米No.1ヒットとなった名曲「Lean On Me」もカバーされまくり。おそらく「Ain't No Sunshine」の次に多くカバーされているが、最もよく知られているのは、やはり全米No.1ヒットとなった86年のクラブ・ヌーヴォーによるカバー。だがここではガーナ・ソウル・エクスプロージョンなる、当時のソウル・ヒットをカバーした企画モノから。




6. Use Me / Isaac Hayes  ('78)
  from 『Hotbed』
「Lean On Me」とともに『Still Bill』からの2大ヒット曲となった「Use Me」。ジェイムス・ギャドソンのドラムスもファンキーな名曲で、個人的にも最も好きなビルの曲。もとより、セクシュアルな意味合いも匂わせる歌詞のこの曲だが、ビルの訥々としたヴォーカルがユーモラスな味わいを与えていた。が、ヘイズの例の暑苦しい低音ヴォイスで歌われることで、濃密なエロい汁が溢れ出し、黒い体臭がプンプン臭う猥雑ファンクへと変貌。
hotbed

7. Kissing My Love / Cold Blood  ('73)
  from 『Thriller!』
『Still Bill』のファンク・サイドを象徴する傑作「Kissing My Love」。原曲もドラムスとワウ・ギターがファンキーにグルーヴするカッコいい曲だが、ベイエリアの大型ファンク/ロック・バンド、コールド・ブラッドによるカバーは、タメの効いた迫力のあるドラムスと執拗に掻き毟るワウ・ギターがモア・ファンキー。

 


8. I Can't Write Left Handed / John Legend & The Roots  ('10)
  from 『Wake Up!』
『Live At Carnegie Hall』初出となる、傷ついた兵士を歌った反戦歌「I Can't Write Left Handed」。ジョン・レジェンドとザ・ルーツがタッグを組んだ、70年代ニュー・ソウルのカバー・アルバム『Wake Up!』の中でも、ハイライトと言えるのがこの曲。原曲の持つ、震えが来るような神通力は、このカバーにも宿っている。




9. Cold Bologna / The Isley Brothers  ('71)
  from 『Givin' It Back』
この記事を書くまで勘違いをしていたのだが、このビル・ウィザーズ作の「Cold Bologna」はアイズレーのヴァージョンがオリジナルで、タイトルを「Cold Baloney」と変え、1stアルバムの1曲目を飾る「Harlem」とのメドレーという形で、『Live At Carnegie Hall』の最後に演奏されている。ビルのヴァージョンはセルフ・カバーということになる(このプレイリストの主旨からは本来外れているけど...)。アイズレー版でギターを弾いているのはビル本人で、フォーキーな初期のビルの作品らしさに溢れている。

 


10. Hello Like Before / Anthony David  ('18)
  from 『Hello Like Before  The Songs Of Bill Withers』
コロンビア移籍第1弾アルバム『Making Music』収録の、ビル・ウィザーズ後期の代表曲「Hello Like Before」は、アンソニー・デイヴィッドの全曲ビル・ウィザーズ・カバー・アルバムから。アルバム・タイトルにもなっているこの曲、原曲に忠実なボッサ・タッチのアコースティック・メロウ・ソウル。極上。
hello like before

11. Ain't No Sunshine / Lyn Collins  ('72)
  from 『Think(About It)』
JBファミリーの歌姫、リン・コリンズによるカバー。ファンク・ナンバーでの突き抜けたファンキー歌唱が持ち味の人だが、ガラッパチな荒っぽい歌い口が醸すヤサグレ感が、原曲のブルージーさと意外や好相性。

  


12. Let Me In Your Life / David T. Walker  ('76)
  from 『On Love』
メロウ・ソウル・ギターの神の、トロトロにトロけるドエロいギターがたっぷり入ったドエロいジャケットのアルバムから。優美な弦アレンジを伴って、デヴィT専売特許の黄金オブリガート連発のめくるめく官能の世界に浸るオープニングから、中盤以降はテンポ・アップし軽快に聴かせる。
on love

13. Use Me / The J.B's  ('72)
  from 『The Lost Album featuring Watermelon Man』
JB'sが72年にシングル・オンリーでリリースした「Use Me」のカバーは、ルーズなノリの路地裏感溢れるファンク・ナンバー。当時この曲を含むアルバムを制作するもお蔵入りの憂き目にあうが、2011年になって『The Lost Album』というタイトルで復刻リリースされている。




14. Kissing My Love / Afrique  ('72)
  from 『Soul Makossa』
デイヴィッド・T・ウォーカー、アーサー・ライトを中心に、チャック・レイニー、チャールズ・カイナードなどが参加した企画モノのジャズ・ファンク・アルバムから。いつになくファンキーなワウ・ギターをカマすデヴィTに、スティーヴィー・ワンダー「I Wish」でも叩いているレイ・パウンズのファンキーなドラムスが応戦。




15. Who Is He And What Is He To You / Ultrafunk  ('74)
  from 『Ultrafunk』
UKのファンク・バンド、ウルトラファンクによるカバーは、ダーティーなワウ・ギターをグシャグシャと掻き毟りまくり、スリリングなストリングスも入ってブラックスプロイテーション感横溢の激烈ファンク・チューンで、原曲の面影などもうほとんど感じられない大胆な解釈。このアルバムには「Use Me」のカバーも入っていて、そっちもカッコいい。




16. Lovely Day / Jose James  ('18)
  from 『Lean On Me』
偶然か必然か、ビル・ウィザーズ全曲カバー・アルバムをアンソニー・デイヴィッドと同じ年にリリースしたホセ・ジェイムス。「Lovely Day」は77年の『Menagerie』収録の大人気曲。ホセはこの曲をレイラ・ハサウェイとのデュエットでカバー。
lean on me

17. Use Me / D'angelo
  from 『Interpretations : Remakes』
ディアンジェロが1998年のTVショウで、デイヴィッド・サンボーンらと共演し披露した「Use Me」。映像はYoutubeなどで見れるが、音源としての正規リリースは無いものの、カバー曲ばかりを集めた『Interpretations : Remakes』なる怪しげなブートまがいの(でもAmazonで容易に入手可能な)CDに収録されている。
remakes

18. Kissing My Love / Spanky Wilson
  from 『The Westbound Years』
スパンキー・ウィルソンが70年代中期にウェストバウンドに吹き込むも、当時はリリースされなかった楽曲を集めたCD『The Westbound Years』に収録された「Kissing My Love」のカバー。エッジの効いたファンキーなジャズ・ファンク・グルーヴ、スパンキーの気風のいいヴォーカルもカッコいい。
westbound years