bill withers

 飾らない朴訥としたヴォーカルで、温もりに溢れた数々の名曲を送り出してきたソウル・シンガー/ソングライター、ビル・ウィザーズ。

遅咲きの苦労人がブッカー・T・ジョーンズのプロデュース、MG'sを中心にレコーディングした1stアルバム『Just As I Am』をリリースしたのは1971年、既に33歳。しかし、デビューは遅かったものの、シングル「Ain't No Sunshine」は大ヒットを記録、更にグラミー受賞と、いきなり大きな成果を挙げた。
just as i am

ビルの楽曲の中でも最もよく知られた作品「Ain't No Sunshine」は、今に至るまで数多くのアーティストにカバーされている。Who Sampledにあるだけでも、実に150曲ものカバーが存在しており、この曲の持つ普遍的な魅力が多くのミュージシャンをインスパイアしてきたことを物語っている。

『Just As I Am』はビルにとって記念碑的な、素晴らしいアルバムだったが、個人的には、ワッツ103rdストリート・リズム・バンドのジェイムス・ギャドソンやメルヴィン・ダンラップ、レイ・ジャクソン、ビノース・ブラックモンらとの緊密な共同作業から生み出された72年から74年にかけての3枚、『Still Bill』『Live At Carnegie Hall』『+' Justments』こそがビルのクリエイティヴィティが最大限に発揮された作品だと思う。

特に、「Lean On Me」「Use Me」という特大ヒット2曲を含む『Still Bill』は、全曲クラシック級の名曲ばかり。またここからも多くのカバーが生まれるなど影響力も大きく、例えばマーヴィン・ゲイ『What's Going On』やスティーヴィー・ワンダー『Innervisions』、カーティス・メイフィールド『Back To The World』、ダニー・ハサウェイ『Extension Of A Man』といったニュー・ソウル神盤にも肩を並べるほどの、70年代ソウルを代表する作品のひとつであり、自分もビルのフェイヴァリットを1枚選ぶなら迷わずこの『Still Bill』を挙げる。




『Still Bill』のスタジオ・セッションでワッツ・バンドの面々と育んだ呼吸や一体感もそのままに、ステージで再現してみせたのがライヴ盤の『Live At Carnegie Hall』だ。このライヴでの、まるでもう何年も一緒にやっているかのようなビルとバンドの一体感から生み出されるグルーヴは、本当に素晴らしい。同じギター弾きのソウルマンであるカーティス・メイフィールドの『Curtis/Live!』とは、ハコの大きさの違い、聴衆との距離感の差異を音からも感じるのだが、歌にもバンドの演奏にも生々しい息遣いを感じさせるという点で、両作には共通したムードが感じられる。




以降も、デビュー以来在籍したサセックスからコロンビアに移って、『Making Music』や『Naked & Warm』といった秀作を残した70年代後半、グローヴァ―・ワシントンJr.「Just The Two Of Us」やクルセイダーズ「Soul Shadows」への参加で再び脚光を浴びた80年代初頭と、それぞれの時代に確かな足跡を残してきたビル。90年以降は音楽活動から遠のいていたが、彼の楽曲のカバー、あるいはサンプリングは後を絶たず、近年もホセ・ジェイムスやアンソニー・デイヴィッドが全曲ビル・ウィザーズのカバー・アルバムを相次いでリリースしていた。

色褪せることのないエバーグリーンな輝きを湛えたビル・ウィザーズの音楽は、これまでも、そしてこれからもずっと生き続ける。
R.I.P.

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