tony allen
フェラ・クティの音楽を初めて聴いたのは、1993年に日本のビクターが "Fela Kuti Afro Groove Collection" と題して、70年代のフェラの作品を一挙にCD化した時だった。当時Black Music Review誌に掲載されたレヴューを読んで興味を持ち、まずは美味しいところをギュッと凝縮した編集盤『Funkiest Grooves Vol.1』『Funkiest Grooves Vol.2』の2枚を聴き、まんまと底なし沼にハマってしまった。
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それから同シリーズでラインナップされた2in1のCDも全部買うハメになったのだが、そのなかでも『Alagbon Close』『Kalakuta Show』のカップリングという最強スギルCDは特に聴きまくった。
延々と同じリフを垂れ流す腱鞘炎になりそうなリズム・ギターや、地を這うようにウネるベース、耳を劈くホーン・セクション、そしてもちろん、アジるフェラとレイディースのレスポンスなどもフェラの音楽の魅力だけれど、とりわけ惹かれたのがトニー・アレンのドラムスだった。





しなやかでありながら腰の強いグルーヴが駆動するトニーのドラムスは、出自であるジャズ~ハイライフを下地としながら、そのセンスと技術に磨きをかけて、独創的で唯一無二のビートを創造した。トニー本人は生涯にわたって自身のことをジャズ・ドラマーと捉えていたのかもしれないが、トニー・アレンなくしてアフロビートの完成は無かったことは間違いないだろう。

件の『Alagbon Close / Kalakuta Show』では、「I Know Get Eye For Back」のしなやかなでステディなグルーヴや、「Kalakuta Show」の全身バネのような躍動するビートに魅了された。この時にはアルバム復刻されなかった(が後にCD化された)『Expensive Shit』も大好きなアルバムで、タイトル曲が『Funkiest Groove Vol.1』に、「Water No Get Enemy」が『Vol.2』に収録されていて、特に「Water No Get Enemy」でのトニーのドラムから繰り出されるグルーヴの魔力にも魅入られた。



90年代末には、70年代後半にリリースしたトニーのリーダー作もPヴァインからCD化されたが、フェラ作品のような張り詰めた緊張感は無く、リラックスしてアフリカ70の面々と演奏を楽しんでいるような感じもまた良かった。





2000年前後ぐらいからは、トニーの活動は再び活発になっていったようで、アルバムも多くリリースしている。実は近年(と言ってもここ20年ぐらいだけど)の作品はあまり聴けていなくて、99年の『Black Voices』も当時はスルーしていたのだけれど、2010年の『Black Voices Revisited』は気に入ってよく聴いていた。



トニーが生み出したアフロビートは、後のファンクやダンス・ミュージックに広汎な影響を及ぼした。
ジェイムス・ブラウンは1970年にツアーでナイジェリアを回った時、まだ10代のブーツィーらを引き連れてフェラのライヴを聴きに行き、若きブーツィーはフェラのバンドのグルーヴにすっかりヤラれてしまったのだそう。JBはブーツィーたちに学ばせ、フェラのディープなグルーヴを自身の音楽に取り入れようとした。その成果は「Soul Power」や「I Got To Move」を聴けば分かるだろう。
JB以降のファンク・ミュージックはもちろん、90年代以降のヒップホップやハウス、クラブ・ミュージックなどにも、フェラ・クティの、トニー・アレンのアフロビートは影響を与え、今もその鼓動は最新のビートの根っこに息づいている。

真に独創的で唯一無二のビートの創造者トニー・アレン、安らかに。

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