plays originals
Plays Originals / Kashmere Stage Band
 Kram '73 

全米最強のハイスクール・バンド、テキサス州ヒューストンのカシミア高校ブラスバンド部。
彼らカシミア・ステージ・バンド(以下、「KSB」と略)の特徴は、高校ブラバンにありがちなジャズやスタンダード・ナンバーだけでなく、当時のファンク/ソウルのヒット曲もレパートリーにしていたことだ。いや、そういう高校は他にも多くあったことはDJシャドウがコンパイルした『Schoolhouse Funk』などを聴けば分かるが、しかしカシミア高校はレベルが桁違いなのだ。

スライ&ザ・ファミリー・ストーンやジェイムス・ブラウン、アイザック・ヘイズなど、当時黒人の若者たちが熱狂していたファンク/ソウル・ミュージックを、音楽教師のコンラッド・O・ジョンソン先生の指導のもと鍛え上げられ超高校級の演奏で聴かせるKSB。更にはオリジナル曲も多数有し、それもまたグリグリにファンクしてるのだから凄い。もちろん主役はド迫力のブラス・セクションだが、ドラムス、ベース、ギターと、リズム・セクションもイカツいグルーヴをこれでもかと繰り出してくる。
彼らは学生コンテストを荒らしまくり、学業そっちのけ(?)で全米中をサーキット、海外公演まで行うなど人気を博したようだ(75年には沖縄海洋博に招待され、その時の演奏はレコード・リリースもされている)。

学生スポーツにも言えることだが、毎年卒業・入学で生徒が入れ替わっていくなか、高いレベルを長年にわたってキープし続け常勝チームを築き上げるのは並大抵のことではない。高校野球で言えば、80年代のPL学園や、2000年代以降の大阪桐蔭の名前が挙がると思うが、70年代のカシミア高校もその域に達していたのだろう。ジョンソン先生の指導力はもちろんのこと、生徒たちは数多くの実戦(ライヴ)でメキメキと腕を上げていったのだろうし、またこの高校でプレイしたいという優秀な中学生たちが全米中から集まってきたに違いない。

斯様に、US高校ブラバン界を席巻したKSBは、60年代末~70年代半ばにかけて8枚ものアルバムをリリースしている。そのうちライヴ盤が2枚(前述の沖縄公演の実況盤含む)、6枚がスタジオ録音作だが、73年の本作『Plays Originals』は、それまでにリリースしたアルバムの中からバンドのオリジナル曲だけを厳選した内容。
つまりベスト盤なのだが、これが侮れない。彼らのそれまでのアルバムがファンク含有率50%ほどで、残りはスタンダードやジャズ・ナンバーなのに対し、本作は収録7曲のうち6曲がファンク。つまりKSBの最も濃密なファンク・アルバムと言えるのだ。

本作はそれまでにリリースしたアルバムから選んだベスト盤と先に述べたが、正確に言うと、69年の1stアルバム『Our Thing』と70年の2nd『Bumper To Bumper Soul』からは1曲も選ばれておらず、71年~73年の3年間にリリースされた3枚のアルバムから選曲されている。
これは単純に、オリジナル・ナンバーから良い曲を選んだらこうなったということなのだろうが(1stだけ別のレーベルから出ているということもあるかもしれないが)、そこにはある1人の生徒の存在があることに気づく。ベーシストのクレイグ・カルフーン君だ。

71年~73年の3枚のアルバムすべてにカルフーンはクレジットされており、またいずれもベーシストは彼ひとりだ。また、本作以降にリリースされたアルバムは2枚(スタジオ録音作はそのうち1枚のみ)で、もちろんジェラルド・カルフーンの名前はクレジットされていない。74年の『Out Of Gas "But Still Burning"』も良い作品だと思うが、結果的にはこれが最後のスタジオ・アルバムになってしまっている。
カルフーンがカシミア高校に在籍した3年間と、内容的にKSBの黄金期と言える3枚のアルバムが録音された期間がピッタリ重なっているという事実。KSBの集大成としてコンパイルされたであろう本作『Plays Originals』のベースが、すべて彼ひとりの演奏で埋め尽くされているのは必然だ。

アルバムの内容に触れると、71年の3rd『Thunder Soul』からは最多の4曲が収録されている。うち、「Lots Love」は本作中唯一の非ファンク曲だが、それ以外の3曲「Do You Dig It Man?」「Thunder Soul」「Don't Mean A Thing」はいずれも、砂塵巻き上げるテキサス・トルネードがごとく、荒々しくもびっちりタイトに音塊をぶつけてくる強力なビッグ・バンド・ジャズ・ファンク。まだ1年生ながらもグリグリとトグロ巻くベースでグルーヴをけん引するカルフーンは、83年の清原・桑田クラスのスーパー・ルーキーぶり。

KSBの代表作と目されることも多い72年の4th『Zero Point』は、スライ「Thank You」やアイザック・ヘイズ「Do Your Thing」、デニス・コフィー「Scorpio」の傑作カバーを含むが、オリジナル曲はやや弱かったのか、本作でピックアップされたのは「All Praises」1曲のみ。しかしこの曲もかなりカッコよく、疾走感溢れるビッグ・バンド・ジャズ・ファンクをブッ放してくれる。

残る2曲は73年の5th『Kashmere "73" Live In Concert』から。カルフーンが最上級生となったこの年が、おそらくKSBのピーク。カルフーンのベースと素晴らしい相性を見せるドラムスがまた凄い。5thアルバムでドラムスとしてクレジットされているのはフランク・ベル君とクレイグ・グリーン君の2人で、ベルの方は前作『Zero Point』にも名前があるが、グリーンはこの73年作にしか名前がない。74年作には2人ともクレジットがないことから、おそらくこの2人もこの時3年生と思われる(ということは、カルフーンと、4th&5thアルバムでギターを弾いているアール・スパイラー君も含め、この時の3年生はまさに黄金世代だ)。
演奏を聴く限りでは、少なくとも本作に収録された2曲「Kashmere」と「Head Wiggle」は、『Zero Point』のドラムとはプレイ・スタイルが異なっているように聴こえるので、おそらくグリーンのプレイではないかと思われる(Pヴァインからの5thアルバムの再発CDのライナーにもグリーンの演奏と記載されている)。

校名をタイトルに冠した「Kashmere」はKSBの代表曲と呼ぶべきディープ・ファンク・クラシック。カルフーン&グリーンのリズム隊が繰り出す筋骨隆々のファンク・グルーヴが凄まじい。美味しいドラム・ブレイクもテンコ盛りで、まさにカシミア高校ファンク校歌の名に相応しい。
「Head Wiggle」は黒く硬く太いベースがグリグリゴリゴリと脈動するテキサス・ファンク。熱く咆哮する鉄壁のブラス・セクションもモリモリと盛り立ててくる。

カルフーンとグリーンの2人はやはり相性の良さを感じていたのか、カシミア高校卒業後、地元ヒューストンのサックス奏者のレオン・ミッチソンのバンド、イーステックス・フリーウェイ・バンドに加入(ギターのスパイラーも)。彼らは74年のディープ・ファンク・クラシック「Street Scene」でも演奏している。